「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

南アフリカが見せたティア1の真の実力 6トライを喫したラグビー日本代表はW杯に間に合うのか

2019 9/12 17:00藤井一
チェスリン・コルビを止めようとする田村優Ⓒゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

6つのトライはすべて簡単に奪われた

ラグビーW杯開幕を約2週間後に控えた9月6日、日本代表は南アフリカと熊谷ラグビー場で対戦し7-41で完敗。残り時間がほとんどないタイミングで起きた緊急事態、あっさりと奪われた6トライから日本の置かれた現状を探る。

7分
開始早々、日本ゴール前での日本ボールのラインアウトをキャッチできずノックオン、南アフリカはスクラムからトップスピードでタテに突っ込むこと2回、そして3回目は 170cmの右WTBチェスリン・コルビが鋭くインゴールに潜り込んだ。

南アフリカのパワーとスピードに屈した形だ。

22分
自陣でSO田村優がハイパント、これがジャンプした南アフリカFBウイリー・ルルーの胸にスッポリ収まると、左WTBマカゾレ・マピンピに渡り、脚力を活かして一気にインゴールへ駆け込んだ。

自殺点にも等しい失点となってしまった。

31分
南アフリカSHファフ・デクラークのハイパントを競る相手がいたわけでもないのにFBウィリアム・トゥポウがノックオン。このスクラムでは南アフリカが日本を圧倒、余裕をもって左オープンに展開、1次攻撃でマピンピにインゴールまで持っていかれた。

こんなに簡単にディフェンスが崩されるのはティア1レベルではまず見られない。

53分
南アフリカSOハンドレ・ポラードのハイパントを競り合ってキャッチできず、南アフリカに拾われ、そこから左に大きく展開しただけでマピンピが走り切った。

ハイパントが取れなかった後にディフェンスが一切機能できなかったのは深刻な問題だ。

73分
72分にシンビンとなり1人減っている状態の南アフリカに対して日本が怒涛の攻め。しかしゴール前でのSO田村の飛ばしパスを南アフリカのコルビがインターセプトすると、そのまま独走してトライ。

その瞬間、田村は自分の指先を見て、残念そうなそぶりをした。試合後「ボールが滑って」などとコメントしていたが、なぜインターセプトの危険がある飛ばしパスなどしたのか?

すでに勝敗は決した時間帯ではあったが、相手が1人少ないのだから状況をよく見て空いているスペースに選手を走りこませるなど相手にボールを与えないプレー選択が肝要。ボールが滑る滑らないの問題ではない。

79分
ターンオーバーから日本ディフェンスのギャップをつき、途中出場のSHハーシェル・ヤンチースに独走された。もはや攻めることしか頭にない状況だった日本にとって半ばやむを得ない失トライともいえる。

まだほんとうに時間はあるのか?

「南アフリカ戦で見つかった課題を修正すればいい。まだ時間はある」とリーチマイケル主将をはじめ、各選手は異口同音に話しているが、失った6トライのうち、2つは単純なキャッチミス、2つはSO田村の致命的な判断ミスがトライにつながっている。

さらに付け加えれば相手が14人になってから日本は得点できなかったどころか、逆にトライを2つも奪われている。

南アフリカは今年南半球最強を決めるザ・ラグビーチャンピオンシップに10年ぶりに優勝、まさに乗りに乗っているチームではあるが、ワールドカップ直前にこんなゲームをしていてどうやったらベスト8に進出できるというのだろうか?

あえて言うまでもないが日本のミスの多さは今に始まったことではない。それをなくすために今まで長い時間をかけて練習してきたのではないのか?確かにフィットネスは向上した。当たり負けしない頑強なチームにはなった。それは練習の成果だろう。

だが、故平尾誠二氏が「日本の伝統工芸」とさえ話していたBKの華麗なパスプレーや相手ディフェンスのギャップをつく動きなどは全く見られず、BKはパスミスだらけ。パスの精度を上げるなど課題として挙げる以前の問題である。

しかも、この大事な時期にナンバーエイトの核弾頭アマナキ・レレイ・マフィと切り札ともいうべきWTB福岡堅樹が負傷した。ジェイミー・ジョセフHCは軽症を強調しているが、攻撃の要である2人がワールドカップにベストコンディションで出場できないというのはこの上もなく痛い。

ベストメンバーで対戦したのは南アフリカのみ

日本はこれで2016年からティア1全10チームと対戦したが、実はどのチームも主力メンバーの何人かを出場させていない。昨年対戦したニュージーランドに至っては完全な2軍。イングランドも主力選手が半分以下だった。

対戦した10チーム中、唯一日本が勝利したイタリアも大黒柱の主将ナンバーエイトのセルジョ・パリッセ抜きのチームで、しかも2戦目にはそのイタリアの圧力に敗れた。

「このメンバーが日本に対する最大限の敬意であるという強いメッセージになることを望んでいる」と南アフリカのラッシー・エラスムスHCは語った。つまり、4年前の雪辱に燃える今回の南アフリカだけがティア1の中でベストメンバーで日本と戦ったのだ。

本気のティア1がどれだけ強いか、というより日本とティア1の間にどれだけの差があるのか。今頃わかっても遅すぎる気もするが、見方を変えればW杯本番前にわからせてくれた南アフリカには感謝しなければいけないだろう。

日本に修正する時間がまだあるというならそれを信じるしかない。

《関連記事》
歴代最多の15人選出、ラグビー日本代表に海外出身選手が多い理由とは?
ラグビー日本代表、W杯開幕へ期待と不安 BK決定力向上も各ポジションで経験不足懸念
ジャパンの命運握る快足ウイング福岡堅樹、東京五輪後は医師にトライ