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ジャパンの命運握る快足ウイング福岡堅樹、東京五輪後は医師にトライ

2019 9/2 06:00田村崇仁
W杯で期待される福岡堅樹Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

ワールドカップ日本代表発表

9月20日に開幕するラグビーのワールドカップ(W杯)日本大会で初の「ベスト8」を目標に掲げる日本代表の31人が発表された。前回の2015年W杯1次リーグで難敵の南アフリカを破るなど歴史的な3勝を挙げたメンバーから主将を継続するフランカーのリーチ・マイケル(東芝)ら10人が代表に残り、21人が初選出。外国出身で国籍取得、居住などの条件を満たした選手は15人で過去最多と国際化が顕著となった。

前回活躍したフルバックの五郎丸歩(ヤマハ発動機)らは外れたが、日本の命運を握るトライゲッターが26歳のWTB福岡堅樹(パナソニック)だ。

ラグビーW杯メンバーⒸSPAIA

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チーターより速い?50メートル5秒8

内科医の祖父と歯科医の父を持ち、7人制ラグビーで代表入りを狙う来年の東京五輪を最後に現役引退し、小さいころからの夢である医師を目指すことを公言している。高校時代に膝を手術した経験があり、再び大学に進学してスポーツに関係する医療分野の専門医を志す決意を固めた。

究極の「文武両道」でアスリートの新たな道を開拓する「韋駄天」、福岡は身長175センチと海外勢に比べて上背こそないが、福岡・福岡高時代から50メートル5秒8で走る快速が最大の武器。その瞬間的なスピードと加速力はエディー・ジョーンズ前監督から「チーターと競走しても勝てる」と冗談めかされたほどだ。

一人で局面を変えられる特別な能力。2度目のW杯へ、屈強な大男たちがそろう世界も「ワールドクラス」と警戒する驚異的なスピードと緩急を使った巧みなステップワークにさらなる磨きをかけている。

前哨戦で3試合連続トライ

8月の前哨戦を兼ねた国際大会、パシフィック・ネーションズカップ(PNC)で世界ランキング9位の日本は同10位のフィジー、同15位のトンガ、同14位の米国との3連戦で3連勝。その中で福岡は3試合連続トライと絶好調で上々の結果を残した。

米国戦は前半11分、ボールを受けると、右へのフェイントから体を前傾させた独特のフォームで一気に加速して約40メートルの独走トライ。過去3勝14敗と苦手にしていた難敵のフィジー戦では司令塔のSO田村優がディフェンス裏に絶妙なキックを放ち、福岡がダイビングでインゴールに押さえる場面もあった。

世界の強豪に比べ、体格に劣る日本はキックを効果的に使って攻め込む戦術に活路を見出そうとしている。その快足を生かして味方のキックを追い掛ける「キックチェイス」は重要なプレーの一つだ。巧みなステップを駆使するウインガーとして強豪国のディフェンス陣を切り裂き、万全の仕上がりをアピールした。

NZ戦で真価発揮

15年W杯の日本はジョーンズ前監督の下、我慢強くボールを保持するスタイルで3勝を挙げたが、得点力には難点もあった。ジョセフ・ヘッドコーチが掲げるのは時間をかけずに「効率よくトライを取る」攻撃的なラグビー。昨年11月、福岡が真価を発揮した試合がある。W杯で最多3度の優勝を誇る世界王者のニュージーランド代表「オールブラックス」との大一番だ。

チームとして過去最多の5トライと成長ぶりを証明。31―69で敗れたが、過去最少得点差で意地を見せた。オールブラックスの選手たちも「あのウイングは速い」と舌を巻いたのが福岡だった。

大きな見せ場はトライの起点となるプレー。左タッチライン際でボールを持つと、スピードとハンドオフで相手を交わし、3人を引き付けて最後はタッチに出る寸前でボールを味方につないでトライにつなげた。

2017年に世界最高峰リーグ、スーパーラグビーにサンウルブズでデビューし、パワーと当たりの強さを磨き、武器であるスピード以外のプレーの幅も広げたのが大きい。オールブラックス相手でも難なくやってのけ、ハイボールキャッチや接点での強さも発揮した。

ピアノとドラムも得意

高校時代はバンドでドラムを担当。3歳から中学3年まで習ったピアノも得意だ。リズミカルなステップワークは音楽好きも影響しているのか。

来年の東京五輪はラグビーの7人制で2016年リオデジャネイロ五輪に続く代表入りを目指している。リオ五輪ではメダルにあと一歩の4位。7人制は15人制と同じグラウンドを使うのでスペースが広くなり、リズムに乗ったステップと持ち味のスピードを、より発揮できるのが強みとなる。

15人制で初キャップを獲得したのは筑波大2年だった2013年4月のフィリピン戦。ファーストタッチで約60メートルを走り切って初トライをマークする衝撃のデビューを飾った。ジョーンズ前監督を驚かせた。

今も単なるウイングではなく、カバーリング時の驚異的な戻りの速さやディフェンスでの貢献度が高い。日本ラグビー史に残るスピードスターが桜のエンブレムを胸に疾走する姿を見られる機会も、残りわずかだ。

1次リーグは20チームが4組に分かれて戦い、各組2位までが準々決勝に進む。A組の日本は9月20日の開幕戦(東京・味の素スタジアム)でロシアと対戦。28日にアイルランド(静岡スタジアム)、10月5日にサモア(愛知・豊田スタジアム)、13日にスコットランド(横浜・日産スタジアム)と当たる。いよいよ歴史のホイッスルが鳴る。

ラグビーW杯日程ⒸSPAIA

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福岡 堅樹(ふくおか・けんき)2015年W杯代表、16年リオデジャネイロ五輪7人制代表、33キャップ。福岡高、筑波大出、パナソニック。175センチ、83キロ。26歳。福岡県出身。