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復活のエース!G1クライマックス覇者 棚橋弘至の苦悩と未来

2018 8/23 13:00SPAIA編集部
プロレスリング,ⒸShutterstock.com
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エースは死んでいなかった!棚橋弘至G1クライマックス3度目の優勝!

8月12日。日本武道館でレスラー達の熱い夏が終わった。新日本プロレス G1クライマックス決勝戦。たどり着いた二人のレスラーは、長く過酷なリーグ戦の決勝で、観客を大いに沸かせた。

飯伏幸太VS.棚橋弘至

お互い一歩も引かない展開、激しすぎる技の攻防、それを後押しするような観客の声援。あの日、会場の誰もが勝者を予想することが出来なかった。

飯伏は新日本プロレスに舞い戻ったスーパースター。身体の切れ具合から、コンディションも最高の物に仕上げてきたことがすぐにわかる。また、試合の中での表情から、今大会にかけている姿がひしひしと伝わってきた。

一方、棚橋の決勝進出は、一部ファンの間では「意外」という声もあがっていた。ケガからの復帰を繰り返し、最近では目立った功績を残すことが出来ずにいたことが原因と言える。決勝進出は、勝ちを積み上げ続けていたオカダカズチカか、初参戦ながら好成績をあげたジェイ・ホワイトか。様々な予測が飛び交う中、棚橋はオカダとの一戦を引き分けで抑え、見事に決勝進出の切符を手に入れた。

「ちょっくら、優勝してきます」

彼がマイクで言ったそのセリフは、嘘ではなかった。35分にも及ぶ死闘の末、自身のフィニッシャーである「ハイフライフロー」の3連発で飯伏をマットに沈め、見事に3カウントを奪い取った。

崖っぷちに立たされた棚橋の「覚悟」

棚橋は近年ケガによる欠場が目立っていた。2016年には左肩剥離骨折と二頭筋断裂。2017年には右上腕二頭筋腱遠位断裂と右ヒザ負傷。今年の初めには鈴木みのる戦での執拗なヒザ責めによる負傷、そして右膝変形関節症。長年、新日本プロレスを牽引してきた棚橋の身体は、試合を重ねるごとに悲鳴をあげていた。

ニュージャパンカップ2018では何とか決勝戦までたどり着くも、ザックセイバーJr.の関節地獄の前に敗北。今年も思うような結果を残せずにいた。エースの棚橋が苦しんでいる間に、新日本プロレス内ではオカダ、内藤ら様々なレスラー達が躍動していた。彼らの活躍を見ていると、棚橋の戦いぶりはどうしても見劣りせざるを得なかった。

「新日本プロレスのエース・棚橋弘至」はもう過去のこと。

そんな声がささやかれ始める中、挑んだ今大会。棚橋はどこか泥臭さを感じるファイトスタイルで、ガムシャラに勝ちを奪いに行く姿を見せた。勝ちを掴むために必死で1試合1試合に臨んでいたのだろう。こうして愚直に勝利のみを追求し、たどり着いた決勝の場。そこで見せた彼の戦いざまは、まさにエースとしての「覚悟」が表れていた。

飯伏の張り手に引くことなく、むしろ打たれながらも前進する。試合全体を通して棚橋の耐える姿が印象に残るほど、飯伏の放つ、えげつない技の数々を彼は受け切り、そして勝利した。

試合後のバックステージで棚橋は、「飯伏は体力、気持ち、技術、何を取っても全部俺より上。それくらい評価してる。あとはここ(ハート)なんですよ」と勝因を語った。もちろん飯伏にも覚悟はあったが、それ以上の覚悟が棚橋にはあった。新日本プロレスを背負う覚悟、そしてライバルであるオカダを倒し、新日本プロレスのエースとして返り咲くという、覚悟。それが、この試合の勝敗の差だったのだろう。

エースの切り開く、新しい未来

飯伏のセコンドには親友であり、タッグパートナーのケニーオメガがついた。そして棚橋のセコンドには、現在は長期欠場中であり、棚橋の旧友である柴田勝頼がついた。お互いの親友同士がセコンドにつき、G1の決勝を迎えることに、会場のファンたちは大いに歓喜した。

「新日本プロレスを見せろ」と、柴田は棚橋に伝えたという。その言葉通り、棚橋は自分自身が新日本プロレスを守るために貫いてきた「エース」としての華やかな戦いを見せつけた。そして、棚橋弘至というレスラーのすべてをかけて戦った。

かつて、棚橋は新日本プロレスの生みの親である猪木に対し、「俺は、新日本プロレスのリングで戦う」と言い放った。それからもう10年以上経つが、その決意を未だに貫いている。暗黒期と呼ばれた人気低迷の苦しい時代を生き、そして新日本プロレスを今の人気にまで復活させたのは、棚橋弘至というレスラーの存在が不可欠だった。増える傷が勲章であるならば、彼のケガの数々は新日本を背負った者の証だろう。

前述の鈴木みのるに敗れた際には、「お前は新日本を復活させた奇跡のきっかけかもしれないが、お前にはもう奇跡はない」とそしりを受けた。だが、彼は奇跡を起こした。いや、このG1の優勝は奇跡ではなく、エースとしてまだやるべきことを達成するための通過点なのかもしれない。

再び奇跡を起こし、棚橋の腰にベルトがまかれた姿を見るのも、近いかもしれない。