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プロレス界は悲劇を繰り返すな!リング禍防止へ統一コミッションの設立を

2022 4/13 11:00糸井貢
イメージ画像,ⒸChristian Bertrand/Shutterstock.com
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ⒸChristian Bertrand/Shutterstock.com

大谷晋二郎が頭部を強打して救急搬送

プロレス界に、再び衝撃が駆け抜けた。4月11日に東京・両国国技館で開催された「Zero1」の「20周年&21周年記念大会」で、大谷晋二郎(49)が試合中に頭部を強打して、都内の病院に救急搬送されるアクシデントが発生。団体は12日、公式サイトで病名を「頸髄(けいずい)損傷」と発表。現在、大谷が気道確保を目的としてICU(集中治療)に入っていることと、13日に今後の悪化を予防するための手術を受けることを明かした。意識は安定しており、医師や家族とも会話をできる状態にあるという。

大谷が動けなくなる直前に受けた技が、投げっぱなしジャーマン。相手の背後から両手で腰をクラッチし、そのままブリッジして3カウントを奪うジャーマンスープレックスホールドの変形で、背後に放り投げるため、距離が出てダメージはより大きい。

大谷はその危険な技を受け、後頭部をコーナーに打ちつけたという。頸髄に損傷を負ったため、身体の自由がきかなくなったもようで、とっさに13年前の「悲劇」を思い出した関係者も少なくないはずだ。

試合中の事故で亡くなった三沢光晴さん

まだ苦い記憶が生々しく残る2009年6月13日。「プロレスリング・ノア」が広島県立総合体育館グリーンアリーナで開催した興行で、日本マット界最大の痛恨事が起きた。

団体のエース兼社長だった三沢光晴さん(当時46)がタッグマッチの途中で、相手を抱え上げて後方に落とすバックドロップを受け、リング上で意識不明の状態に。懸命な処置、必死の祈りも届かず、そのまま帰らぬ人となった。警察の発表によると、死因は「頸髄(けいずい)離断」。一時代を築いたトップレスラーの思わぬ「最期」に、プロレス界が受けたショックは計り知れない。

三沢さんといえば、受け身の天才として知られたレスラー。2代目タイガー・マスク時代から猫のようなしなやかな動きで技のダメージを最大限に分散し、対戦相手からも称賛されるほどだった。

普通なら、基本技ともいえるバックドロップが、それほどのアクシデントを誘発するわけがない。ただ、事故当時、三沢さんは社長業とレスラーの「二足のワラジ」で超多忙状態。トップコンディションを保てず、慢性の首痛を抱えながら、試合に臨んでいた。

ボクシングのように、リングへ上がるレスラーの健康状態をチェックし、時に「ドクターストップ」をかける第三者の存在があれば…。三沢さんが尊い命と引き替えに残した教訓は大きい。大谷も昨年9月の試合中に大ケガを負い、4月に復帰したばかり。「100%」で両国決戦を迎えていたのかどうか、本人しか知る由がない。

ライセンス制度なく次々に誕生する新興団体

全国で100を超える未曾有の多団体時代も、予期せぬ事故を引き起こしかねない。今や町おこしの一環として、地方に新しい団体が次々と興されている。裾野が広がり、新しい才能を生み出す素地ができる一方で、レベルの低下は避けられない。

事実、プロレスの基本ともいうべき受け身が未完成なまま、激しい技の攻防を繰り広げる例も散見される。かつての新日本プロレス・山本小鉄氏(故人)のようなトレーナーの人材不足。さらにライセンス制度がないため、技術、精神が未熟なままリングへ上がれる構造的な欠陥が指摘されている。

屈強なプロレスラーとはいえ、後頭部や脳、頸椎や内臓など、肉体には鍛えようにも鍛えられない部分が多い。実際、リング禍の大部分は頭部へのダメージが要因になっている。会場を沸かせるために、相手によりダメージを与える技を繰り出し、それに見慣れた観客がさらに激しさを要求し、プロレスラーの技が危険な方向にエスカレートしていく。「負のスパイラル」から抜け出すことも、選手を守るために必要不可欠だ。

事故が起きる度に、再発防止策などが叫ばれ、一瞬だけ業界を危機感が支配し、そして何事もなかったように時間だけが過ぎていく。戦う2人の信頼関係で成り立つプロレスは、決して危険だけがクローズアップされるエンターテインメントではない。

今こそ、統一コミッションの設立など、関係者が尽力する時が来ている。大谷選手の一刻も早い回復を願いつつ、プロレス界が「変わる」ことを望みたい。

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