「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

UFC初の中国人王者、ジャン・ウェイリーは試合動画3億回再生の超新星

2020 3/7 06:00高橋テツヤ
アジア人初のUFC王者となったジャン・ウェイリーⒸゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

アジア人ファイター初の快挙、UFC戴冠

「My name is Zhang Weili. I am from China. Remember me!」

2019年9月に開催されたUFC深圳大会のメインイベント、女子ストロー級タイトルマッチで勝利を飾ったジャン・ウェイリーは、勝利者インタビューのマイクを向けられると、まるで新時代の到来を宣言するかのように、英語でこう叫んだ。

ジャンは、総合格闘技のメジャー団体、UFCについに誕生した初の中国人チャンピオンである。その戴冠劇は中国人初というだけではなく、アジア人ファイターとしても初の出来事だった。宇野薫、岡見勇信、堀口恭司といった日本の猛者たちも果たせなかった高みなのである。

アジア人ファイターのUFCタイトル挑戦歴

わずか42秒でベルト強奪、20勝中11勝は1ラウンド決着

ジャンは、散打(打撃と投げ技を主体とする中国武術)、シュアイジャオ(組技を主体とする中国武術)、ブラジリアン柔術をバックグラウンドに持つオールラウンドファイターだ。2013年のMMAプロデビュー戦こそ判定負けを喫したが、それ以降現在に至るまで20連勝中。勝利数20のうち10勝がノックアウト、7勝が一本勝ちというフィニッシャーである。特に第1ラウンドでのフィニッシュ勝利が11回もあるという、爆発的な攻撃力の持ち主だ。

2018年8月にUFCデビューを飾るとあっという間に3連勝、そしてUFCわずか4戦目となる2019年8月31日開催のUFC深圳大会で、UFCストロー級王者ジェシカ・アンドラージに挑戦。試合開始後わずか42秒、打撃の速射砲連打でチャンピオンを仕留め、一気にベルトを獲得したのである。

中国国営テレビでも放送、UFCの中国進出も加速

この嵐のようなパフォーマンスは、中国国内でも大きな反響を集めた。42秒という試合時間がSNSにピッタリだったこともあり、中国では試合動画再生回数が3億回にのぼった。試合当日には中国の検索大手Baiduの検索ワードランキング1位、中国版TwitterのWeiboでトレンド1位を獲得。さらにCCTV(中国の国営テレビ放送)のニュースでも報じられ(UFCが取り上げられたこと自体が初めてであった)、試合後にジャンが出演した中国共産主義青年団によるネット番組には1億8000万の「いいね」が付いた。

現在、米国のスポーツリーグは巨大な中国市場への参入を試みているが、UFCにとってジャンは、NBAのヤオ・ミンのようなカギを握る存在になっていくかもしれない。ニューヨークポストの報道によると、ジャンの戴冠を受けて、UFCでは中国での放映権料をアップさせるための交渉を開始した模様だ。現在、UFCの中国での放映権(ストリーミング)契約は、PPTV Sportsと2016年に締結した年間約1億円の5年契約であるとされる。UFCでは現在、放映権料を年間2億円に倍増すべく、交渉に入ったとされる。

UFCはさらに、上海に14億円を投じてパフォーマンス・インスティテュートという施設をオープン、中国人ファイターがMMAのトレーニングに打ち込むことができる先進的な環境を用意し、さらなる才能も発掘を行っていくとしている。

初防衛戦の対戦相手は元5連続防衛王者

ジャンの初の防衛戦は日本時間3月8日(日)のUFC 248で行われる。挑戦者のヨアンナ・イェンドジェイチェク(ポーランド)は元UFC女子ストロー級チャンピオンで、実に5度の連続防衛記録を持っている“元絶対王者”。ジャンのキレのある打撃にカウンターを合わせる技術とリーチの持ち主だ。

早期決着の多いジャンに対し、あえて5ラウンドをフルに使ったスタミナ勝負に持ち込もうとする可能性もある。経験値では挑戦者が大きく上回るといわざるを得ないが、ラスベガスのオッズではイェンドジェイチェクがわずかにアンダードッグ(負け予想)だというから、ファンのジャンへの高い期待は推して知るべしである。

ブルース・リーの名言、「失敗を恐れるな。失敗することではなく、目標が低いことが罪なのだ。大きな挑戦ならば、失敗さえも栄光となる」を座右の銘としているジャンの初防衛戦は、数年後に振り返ったときに、実はあの大会が格闘技の歴史の転換点だったと思わせる出来事となる可能性が十分にあるのだ。