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「インドより暑い」東京五輪へ暗雲、水質悪化でスイム中止、馬も熱中症懸念

2019 8/21 06:00田村崇仁
東京五輪ではトライアスロン会場の水質悪化などが懸念されているⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

パラ・トライアスロン、大腸菌が上限の2倍超

2020年東京五輪・パラリンピックまで約1年。各競技でさまざまなテスト大会が開かれる中、パラ・トライアスロンのワールドカップ(W杯)で8月17日、思わぬ事態が発生した。

会場のお台場海浜公園の水質悪化でスイムが中止となり、異例のラン、バイクによるデュアスロンに変更して実施。国際トライアスロン連合(ITU)によると、水質検査で大腸菌の値が上限の2倍を超え、大腸菌の数値などから水質を四つに分類すると、今回は最悪の「レベル4」だったという。

テスト大会では日本特有の「暑さ対策」でも工夫を凝らした対策を進めているが、熱中症のような症状を訴える各国選手が続出。ホッケー女子のテスト大会に参加したインド選手からも「日本の暑さにはびっくり。インドより暑い」と驚きの声が上がるなど、本番の運営へ暗雲が立ちこめている。

濁っていて「手が見えない」

お台場のスイム会場は計画段階から懸念が指摘され、対策を強化してきた場所でもあった。関係者によると、今回は天候不順の影響もあって試泳の段階から濁りがすごく「(泳ぐ時に)手が見えない」と証言した選手もいたほど。

水質問題は2016年リオデジャネイロ五輪でも深刻な課題として取り沙汰され、各国メディアの集中砲火を浴びたが、世界一清潔な都市とも言われる東京で「なぜ?」「最高水準の技術力で対応してほしい」と首をかしげる海外メディアの関係者もいた。

東京都や大会組織委員会は汚水をブロックする対策として、ポリエステル製の水中スクリーンをコースの外周に設置しており、15、16日の健常者によるレースでは水質検査に問題はなかった。ところがパラのテスト大会で一転して問題が浮上。原因は究明中だが、台風の影響による強雨や潮目の変化もあり、下水施設から汚水が流入した可能性も指摘されている。

ITUは競技規則で水質が適合しない場合はスイムを中止できると定めており、大会組織委は本番ではリスクを下げるため水中スクリーンをコースの外周に3重に設置して対応する方針だ。競技会場の変更は否定している。

水から異臭も

8月に同じ会場で行われた水泳オープンウオーター(OWS)のテスト大会でも、選手から悪臭などを指摘する声が相次いだ。大会組織委と東京都はこの会場で水質対策の実験を繰り返しており、雨が降ると生活排水などの汚水が浄化処理されないまま海に流れ出ることが主な原因とみている。暑さによる水温の高さも指摘され、対策は急務だ。

水泳の海外専門サイトによると、高水温下での競技で「過去の五輪と比べても最も暑いレースだった」「ちょっと悪臭がした」と不満を口にする選手のコメントを紹介。午前7時に予定されている五輪の開始時刻の前倒しも検討される可能性が出てきた。

熱中症予防でラン短縮もゴール後に病院搬送

一部で「災害級」ともいわれた昨年の酷暑に続き、今年も厳しい暑さで懸念の声が強まっている。

東京五輪でトライアスロンのスタート時刻は男女が午前7時半、混合リレーが8時半に設定されているが、テスト大会では熱中症の危険性を考慮してランを通常の10キロから5キロへ異例の短縮。熱中症予防のための国際指標で気温と湿度、日差しの強さなどから算出する「暑さ指数」で危険を示す予報が出たためだが、フランス選手がゴール後に熱中症の疑いで病院に搬送されたという。さらなる開始時刻の前倒しを要望する声も出てきた。

五輪テスト大会を兼ねたボートの世界ジュニア選手権でも熱中症のような症状で医務室に搬送される選手が相次いだ。

陸上のマラソンコースは全体的に日陰が多いが、競歩は皇居周辺のコースで日陰がほとんどない。男子の50キロ競歩は4時間近くあり、選手からコース再考を求める声も出ている。

馬術も開始時刻の前倒し求める声

馬術の東京五輪テスト大会では猛暑による馬の健康状態を懸念し、五輪本番の開始時刻を午前8時半から前倒しするよう求める声も相次いだ。

人馬一体となって、技の美しさなどを競う馬術は馬の体調が最優先されるのが特徴。暑い中で運動する馬が熱中症にかかるリスクは人間よりも高いとされ、今後もさらなる配慮が必要となりそうだ。

実際、競馬でもレース当日に熱中症にかかった馬が急増している。馬が期間中に滞在する厩舎にはエアコンが取り付けられ、五輪テスト大会の会場には馬を冷やすためにミストシャワーや氷水も準備。国際オリンピック委員会(IOC)が選手の予防策として10項目の手引書「BEAT The HEAT(暑さに打ち勝て)」を公表するなど不測の事態に対応するため、1年前から準備の必要性が問われている。