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【スポーツ×地域】第1回 スポーツの未来を明るくするためには?②

2018 12/21 15:00藤本倫史
Ⓒゲッティイメージズ
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新潟アルビレックスランニングクラブの事例

前回、アルビレックス新潟の事例を述べた。今回は、個人競技で特徴的な活動を行っている新潟アルビレックスランニングクラブの取り組みを紹介したい。

一般的に実業団の陸上部に所属するランナーは、マラソンや駅伝の成績を残すことが主体で、利益を生み出してはいない。何人かのプロランナーは生まれているものの、実際に運営し費用を出しているのは親会社で、クラブ自体で稼いでいる事例は、国内で見ても数少ないのが現状だ。

その少ない事例の一つがこのクラブだ。アルビレックス新潟グループの幹部が私の所属する大学に講演訪問した際、クラブ解説の時間を多めに取っていたことが印象的だった。このことからも、注目度が高いグループであることがわかる。

クラブの主な事業は、ジュニアから大人、トップ選手を含めた約800名のクラブメンバーのための教室運営だ。地域住人のための健康づくりやジュニアスポーツの普及、そしてトップアスリートの育成などを積極的に行っている。

マラソン大会のサポートが有力なビジネスへ

中でも有力な事業へと成長しつつあるのが、マラソン大会のサポートだ。公式HPの資料を参考に平成28年度の実績をみると、新潟シティマラソン、新潟ハーフマラソン、新潟ロードレース、見附刈谷田川ハーフマラソン、笹川流れマラソン大会、角田山一周ハーフマラソン大会、デンカビッグスワン3時間“FunRun”リレーフェス、オリンピックデーランと8つものマラソンのサポートをしている。

マラソンやウォーキングブームの近年、全国各地でマラソン大会が開催されている。しかし、大会の数が増えることで飽和状態になり、参加者の低迷や赤字など多くの問題も抱えている。

また、運営側である主催者には自治体やまちの有志が多く、顧客満足度を高めながら黒字を出すというビジネス体制が整っていない。そのため、プロである新潟アルビレックスランニングクラブがサポートやコンサルタント業務を行っているのだ。

スポーツイベントを行う上でこれは、一つの理想的な形ではないだろうか。もちろん、広告代理店やイベント会社が担ってもいい。だが、まちのシンボル機能を担うプロスポーツクラブがノウハウを活かしながら自分たちのクラブの財源を豊かにし、まちや参加者に有益なサービスを提供することは、双方にメリットがあるといえる。

このように総合型のスポーツクラブが育つことは、選手のセカンドキャリアにとっても非常に好ましい。選手の大半は、自分が行ってきた競技に関わった仕事につきたいと考えるが、指導者になれるのはごく一部である。

総合型スポーツクラブの可能性

このような事業が生まれると、選手を辞めた後でもスポーツに関わりながら生活ができる。良い環境や地域でスポーツをしながら選手の高いスキルを吸収することは、育成や普及に繋がり、子どもたちにとっても好循環といえる。

東京ヴェルディや湘南ベルマーレなどは、トップチームの興業とは別にNPO法人や一般社団法人の法人格を取り、総合型のスポーツクラブを作っている。このようにJリーグでも、地域活性化を目的とした公益型の事業を行うクラブが少しずつ増えている。

この形が最も進んでいるドイツではスポーツクラブが地域の器となり、子どもたちの居場所や高齢者の交流の場になっている。また、地域の色々な事業を行うことで地域の文化醸成も担っている。

プロスポーツクラブが地域活性化を目的とした事業を行うことが当たり前になれば、地域課題も解決でき雇用が生まれる。そうなると、スポーツと地方都市も明るくなっていくのではないか。

【スポーツ×地域】でもう一つ、私が注目しているのが富裕層へのスポーツビジネスだ。次回は富裕層へのスポーツビジネスについて述べていきたい。

《ライタープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。