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【スポーツ×スタジアム】第1回 スタジアムで地域活性化できるか?②

2018 10/26 18:00藤本倫史
スタジアム建設工事ⒸShutterstock.com
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民の力を活かせ!

前回は、現在のスタジアム・アリーナのキーワードについて述べた。多機能複合型を目指し、地域活性化を狙い全国様々な構想が持ち上がっている。2018年5月にスポーツ庁が発表した「スポーツ分野における民間資金・先端技術の活用推進と先進事例の横展開等」の資料を見ると、2018年3月1日時点で、スタジアム・アリーナ新設・建設構想は合計で62件になっている。(スタジアム・球技場が39件、アリーナ・体育館23件)

ユニークな事例は、筑波大学が構想しているつくばエクスプレス駅近くのアリーナだ。駅近くの敷地約3万3千㎡を取得し、建設は民間事業者が設立する特定目的会社(SPC)が担当し、公募で事業者を募る形式をとっている。そして、7~8千人が収容可能なアリーナは、Bリーグや大学スポーツ、3Dのパブリックビューイングなどの実験場として活用することを考えている。

民間企業が設立した事例として有名なのは、スポーツ用品大手のゼビオアリーナ仙台だ。ゼビオグループはそのノウハウを活かし、青森県八戸市にゼビオアリーナ八戸を建設予定である。建設地の土地は市が無償提供し、建設や運営はゼビオグループが行う。このアリーナはアイスホッケーをメインに(2500~3500人を想定)、バスケットボールが4000~5000人と想定されている。しかも、建設地は八戸駅から約200メートルと近く「まちなか型」になっている。

長崎新スタジアムは日本を変えるか?

サッカースタジアムでは、長崎の新スタジアム構想が話題となっている。V・ファーレン長崎の親会社であるジャパネットHDが、長崎県幸町工場跡地の活用事業者の公募に応じて、三菱重工業から優先交渉権を取得した。ホテルやマンションを複合開発する構想で、500億円という建設費が予想されるが、自社で負担するという。

ほとんどのスタジアムが税金で造られている日本で、このような民間企業を中心とした成功事例が出てくると、日本のプロスポーツが変わるかもしれない。スタジアムではないが、実際にソフトバンクや楽天、サイバーエージェントなどもそのような新しいスポーツビジネスの形を創ろうとしている。

このような事例は税金の負担を小さくし、民間の力を活用していく建設方法である。全面的に税金の力を借りるのではなく創意工夫をしなければ、それこそ「ハコモノ」になってしまう。こういった民の力は不可欠である。

また、アリーナより規模が大きく屋外になるサッカースタジアムを同時建設するのは困難で、構想を浮上させながら、なかなか建設に至らないケースが多い。それは、過去に多額の税金を使ったことによる資金不足や、スポーツをする場でしか想像できない地域住民の理解不足、建設候補地や周辺地の課題など、様々な問題があるからだ。

困難を極めた京都スタジアム

京都スタジアムの建設を事例とし、難しさを分析していきたい。現在、京都パープルサンガの本拠地として建設が進んでおり、2020年春を開設予定にしている京都スタジアム。ここに至るまでには、多くの紆余曲折があった。

最初に構想が持ち上がったのは1995年1月。ワールドカップの会場に立候補した京都府は、43,000人規模の専用スタジアムを木津川右岸運動公園に建設することを発表したが、共催となり落選し中止に。1998年9月、大阪オリンピック構想に対応するために再び建設計画を見直し、スタンドの規模を3万人収容に縮小。だが、大阪がオリンピック候補地から落選したため、2003年に2度目の中止となった。

ところが、その年にサンガが天皇杯を制したことも影響し、起こった署名運動では30万人以上の署名が集まった。当時京セラの名誉会長だった稲盛氏が再燃した状況を見て、私財を投じスタジアムを建設するとを公言し、京都市横大路運動公園へ構想が持ち上がるが、市議会で費用負担が問題となり暗礁に乗り上げる。これ以降も検討されたが、費用や候補地の選定で苦しみ断念していた。

ここで一旦、火は消えたと思われた。しかし、経済界が動き出した2010年に再び署名活動が行われ、47万人の署名が集まったのだ。ここでようやく府全体で動き出し、各自治体に土地の無償提供を募ると5つの自治体が手を上げた。

2012年5月には、京都市、城陽市、亀岡市に絞った選定を行い、12月に亀岡市に決定された。決定後にも、候補地が絶滅危惧種のアユモドキの生息地だということで反対運動を受け、一時再検討が行われたが、ようやく2015年6月に府議会で工事費154億円が可決された。

非常に時間がかかって建設までこぎ着けたが、大切なのはその地域がスポーツをどのように活用するかというビジョンとスキームを描けているかである。これは前シリーズなどでも述べているが、そのビジョンとスキームが無ければ、スタジアムを造る意味がない。

何のために必要なのかを地域住民に示し、夢を描けるかが課題だ。そうでないとスポーツによる地域活性化はできない。厳しい言い方になるが、税金を使う以上は説明責任があり、問題は全て透明化する必要があるだろう。

次回はその狭間で揺れている広島市のスタジアム問題について見ていきたい。

《ライタープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。