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【スポーツ×ツーリズム】第3回 スポーツツーリズムは地方創生に活かせるか?②

2018 9/21 18:00藤本倫史
スポーツ×ツーリズム,ⒸShutterstock.com
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スポーツ行政の課題

前回、地方都市がスポーツツーリズムを行う上で、重要な点を述べた。それを踏まえた上で連携していかなければならないのが、県庁や市役所である行政機関だ。

まちづくりや地域活性化の事例では現在、民間単独で行うものも増えている。しかし、大きな動きをする際には協力が必要となってくるため、行政機関ともうまく付き合っていかなければならない。だがその場合、倉田氏も指摘していたように従来の縦割り行政だと観光とスポーツでは別分野に振り分けられ、書類等の作成が困難になりプロジェクトが終わってしまう。

本当にやりたいのであれば市長直轄組織にし、往来的に行政機関も連携していくのがベストなのだが、それはなかなか出来ない。なぜなら国内で行政改革が始まった近年、学校体育の教育分野からようやく切り離されたスポーツ復興のため、基礎が未完成で柔軟な対応ができないのだ。

「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」が改正された2007年、まちづくりの観点から首長部局がスポーツ・文化に関する事務を管理・執行することが明確に可能となった地方自治体は動きが加速。これによって教育委員会から市民局などへスポーツ振興課を移管する自治体が増えた。中四国・九州地区には14の中核市があり、その中で高知市、佐世保市、大分市、那覇市の4市が教育委員会で担っており、他10市は市長部局が担っている。(2016年4月時点)

ベースボールツーリズムを推進する高知

私はこのような動きを2016年に共同研究者と事例に基づき3つの類型に分けた。 1.中四国・九州のような中核市にプロスポーツチームを設立する地域 2.1に付随したスポーツイベントの開催やキャンプ・合宿招致を行う地域 3.スポーツ資源をまちづくりに活かす取り組みを目指す地域

まず、プロスポーツ設立型。この形が盛んなのが四国であり、日本で初めてプロ野球の独立リーグが誕生した土地である。その他、JリーグやBリーグのチームも続々と誕生している。研究では4チームを誕生させた香川県高松市を取り上げたが、このコラムでは高知を取り上げたい。

高知には高知ファイティングドックスという独立リーグのチームがあるが、スしポーツツーリズムの業界では非常に注目されている。藤川球児やマニー・ラミレスの入団により一躍注目を集めていたが、球団創設当初は赤字であった。

しかし経営陣を一新し、球団が農業ビジネスに参入するなど独自の地域密着型経営を展開することで黒字化に成功。選手獲得にも独自色を見せ、台湾出身の選手を積極的に獲得している。

野球が盛んで人気スポーツでもある台湾。その人気に目をつけた球団は「ベースボールツーリズム」と名付け、応援ツアーなどを企画した。また、それを契機に高知県などと連携し、球団を核に観光や地域イベントを開催、海外の富裕層を四国一周してもらい、経済活性化プロジェクトを推進している。

高知ファイティングドックスの歴史や動きに興味のある方は、喜瀬雅則著「牛を飼う球団」(小学館)で詳細に書かれているのでご覧いただきたい。

宮崎はキャンプ・合宿誘致で儲ける

次にキャンプ・イベント型。この代表格は宮崎県宮崎市と沖縄県那覇市である。那覇市は昔からリゾートとして有名であり、人気観光地でもある。ここにさらにスポーツコミッション沖縄を2015年に設立し、スポーツツーリズムで観光産業をさらに強化している。

宮崎市も同様に1990年代までリゾート地として人気だったが、バブル崩壊後は施設の過剰投資などで地域全体が低迷していた。しかし2000年代に入り、プロ野球などのキャンプ誘致を積極的に行った宮崎市は、2016年春季キャンプの経済効果が144億6700万円(宮崎県公式HP発表)とし成果をあげている。現在、宮崎市にプロスポーツ球団はないが、充実した施設と温暖な気候を生かしたスポーツツーリズムのプロジェクトを行っている。

以上、2つの形がこれから益々増えてくると考えられ、各地域の特性に合わせ変化していくのではないかと予測している。同時に経済的・社会的効果が上がっていく地域と、上がらない地域の差も激しくなるだろう。

最後の分類には、私が居住している福山市が入っている。ここに入るのはスポーツコンテンツや資源の活用実績が少ない地域だ。

次回はこの福山市を事例にスポーツツーリズムのこれからを見ていきたい。

《ライタープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。