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五輪の近代五種に「SASUKE」導入? 馬術に代わる障害物レースとは

2022 5/9 06:00田村崇仁
東京五輪で実施された馬術競技,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

人気番組「SASUKE」に似た忍者競争も

「障害物レース」と呼ばれるタフで最近人気のレースをご存じだろうか。5月2日、国際近代五種連合(UIPM)が2028年ロサンゼルス五輪から馬術を除外し、五輪生き残りを懸けた新種目の候補として「障害物レース」を試験的に導入すると発表したことで、にわかに注目されている。

近代五種は近代五輪の父、クーベルタン男爵が考案し、1912年ストックホルム五輪から正式競技入りした。フェンシング、水泳、馬術、それにランニングと射撃を組み合わせたレーザーランの総合力が競われる五輪競技だ。

最近の健康志向やランニング人気の高まりを受け、欧米など世界各国で開催されている「障害物レース」は水、丘、泥などの障害物が大量に用意され、それらを参加者がランニングと肉体のみで乗り越え、ゴールを目指す過酷なレースでもある。

氷水が張られている池や1万ボルトの電流が流れる有刺鉄線などが障害物に含まれる想像を絶する設定もあり、日本の人気テレビ番組「SASUKE」に似た「忍者競争」や「アドベンチャーレース」など大会によって多種多様な種目があることで知られる。6月にトルコで行われるワールドカップ・ファイナル後から試行し、総会で正式に採用するか決定する見通しだ。

東京五輪での批判と人気低迷が改革の背景

近代五種は2024年パリ五輪では従来通り、馬術と水泳、フェンシング、射撃、ランニングを合わせた5種目で行う。

賛否両論の改革案として馬術を除外する背景には、東京五輪でドイツのコーチが馬をたたいて国際的な批判を浴びた問題だけでなく、近年の人気低迷で1912年から実施されてきた歴史と伝統を持つ五輪競技から外されることへの危機感がある。

UIPMは新種目導入に関して低コスト、輸送の負担軽減、都市型などの観点で検討。一時は自転車も候補に挙がったが、トライアスロンと競技が似通うことへの反発も出ていた。

UIPMは「障害物レース」を選んだ理由として「低コストでわかりやすい」「あらゆる年齢層に受け入れられる」の条件を満たし、特に若い世代で人気があることを挙げた。

選手から異論噴出、バッハ会長に仲介要望

一方、伝統と歴史を重んじる選手からは「障害物レース」の導入に早くも異論が噴出。男子で東京五輪金メダリストのジョゼフ・チューン(英国)らは選手の意向を無視しているとして、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長に仲介を求めているという。

英メディアによると、チューンら選手側がIOCに送った書簡では「IOCは選手が5つ目の種目に関する検証プロセスで中心的な役割を果たすべきだと期待している。これが実現していない」と指摘。選手団体の統計で95%以上の選手がUIPMの判断に不満を示しているとの数字も引用した。

しかし、UIPMは声明で今回の導入案には22カ国・地域の26選手も参加し、60以上の案の中から絞り込んだと強調。ショーマン会長は「アスリートが中心的な役割を担った」とコメントし、批判を打ち消した。

選手会委員長のヘフニー(エジプト)も「近代5種の歴史が永遠に変わるであろう画期的な決定の瀬戸際にいる」と歓迎したが、選手間も一枚岩でなく、競技存続を巡る改革の混乱は避けられない情勢だ。

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