相次ぐスキャンダル、とどめの不祥事
「スキャンダル続きの東京五輪に新たな不祥事」―。英BBC放送は7月22日、東京五輪開閉会式の制作・演出チームで統括役の「ショーディレクター」を務めていた小林賢太郎氏(48)の解任をトップニュースとして速報した。
問題視されたのはホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)を巡る禁断のテーマ。米ユダヤ系団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」は小林氏がお笑いユニット「ラーメンズ」時代に、ユダヤ人大量虐殺を扱ったコントを演じたとして非難する声明を出した。会員制交流サイト(SNS)などで「ユダヤ人大量惨殺ごっこをやろう」と言う場面が拡散、国内外で批判の的になっていた。
同団体のエーブラハム・クーパー氏は「どれだけ創造性のある人物でも、ナチスによるジェノサイド(民族大量虐殺)の犠牲者をあざけ笑う権利はない」と主張。この人物が東京五輪に関わることは「(亡くなった)600万人のユダヤ人の記憶に対する侮辱だ」と厳しく指摘した。
国内外の報道陣が集まるメインプレスセンター(MPC)では「東京五輪の運営は大丈夫か」「日本は一体どうした」と疑問視する声が出ている。
小山田圭吾氏、佐々木宏氏も引責辞任
開会式を巡っては、楽曲制作を担ったミュージシャンの小山田圭吾氏が過去のいじめ告白で引責辞任に追い込まれたばかり。3月には開閉会式の企画、演出の統括役だったCMディレクターの佐々木宏氏が週刊誌に報じられた女性タレントの容姿を侮辱する演出の提案で批判を浴び、辞任した。
五輪開幕が直前に迫ってもスキャンダル続きの大会組織委員会は対応に追われ、組織委の橋本聖子会長は7月22日の記者会見で「多くの関係者にご迷惑をかけ、深くおわびする」と謝罪。式典に携わる関係者の過去の言動について、事前の調査が不十分だったと認め「責任を痛感している」と語ったが、辞任は否定した。
その上で開会式の内容を精査した結果「小林氏が1人で演出を手掛けた個別の部分はなかったことを確認した」として、五輪開会式を予定通り実施すると発表。新型コロナ禍の東京大会は、迷走の象徴となった国立競技場で異例ずくめの無観客での幕開けとなったが、混乱必至の状況だ。
解任された小林氏は組織委を通じ「当時の自分の愚かな言葉選びが間違いだったことを理解し、反省しています」とする謝罪コメントを発表した。
五輪選手村「中世のようだ」と批判も
アスリートが生活の拠点となる五輪選手村にも不満が出ている。ロシアのフェンシング監督は部屋や浴室が狭すぎるとして「中世のようだ」と批判。「21世紀の日本とは思えない環境に驚いた。選手が気の毒だ」と嘆いた。
男子テニスのカレン・ハチャノフ選手の頭がユニットバスの天井に届きそうな動画や、女子テニス、エレーナ・ベスニナ選手の「せっけんもない」との不満を伝えている。
白紙撤回、盗作疑惑、女性蔑視
メイン会場の国立競技場計画や「盗作疑惑」が浮上した公式エンブレムの白紙撤回、トップの女性蔑視発言…。東京五輪が「呪われた五輪」と揶揄される所以は、新型コロナ禍による史上初の延期だけでなく、相次ぐトラブルで世論の支持を得られない状況にある。
国立競技場の建設を巡っては、当初、世界的な建築家ザハ・ハディド氏がデザインを手掛けたが、総工費が倍近くになることが分かると批判が噴出。2015年7月に安倍晋三首相(当時)が撤回を表明し、コンペをやり直すことになった。
アートディレクター佐野研二郎氏による公式エンブレムは「盗用」ではないかと指摘された。本人は「事実無根」と主張したが、別の作品でも模倣が取り沙汰され、組織委はエンブレムを撤回。再公募する羽目となった。
「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」。今年2月には、組織委の森喜朗会長(当時)が日本オリンピック委員会(JOC)の会合でこう発言し、釈明会見を開いたが、ボランティア辞退やスポンサーの批判が相次ぐ事態に発展し、トップの座を追われた。
都内の新型コロナ感染者は「第5波」の様相に不安が広がり、五輪賛成派と反対派で分断が生まれる「平和の祭典」。前代未聞の大会はどんなレガシーを残せるのか注目される。
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