空港の検疫をすり抜け、想定外の事態
東京五輪開幕まで1カ月を切る中、来日して事前合宿地の大阪府泉佐野市に入ったウガンダ選手団に2人の新型コロナウイルス感染が判明し、混乱が広がっている。
選手団9人のうち、50代の男性1人が6月19日に来日した直後の空港検疫で陽性と判明。抗原検査で陰性だった8人は成田空港から貸し切りバスで泉佐野市へ移動し、合宿開始後の6月23日には20代1人の感染を公表した。
いずれもインドで確認された変異ウイルスの「デルタ株」に感染していたが、ワクチン接種済みで陰性証明を持つ入国者の感染という「想定外」の事態。うち1人は空港の検疫をすり抜けて合宿先に移動した形で、選手団の入国ラッシュを前に、選手ら大会関係者を外部と遮断する「バブル方式」で安心安全な大会運営をアピールする五輪は、早くも「バブル崩壊」の危機に立たされている。
濃厚接触者の判定で混乱も
泉佐野市が事前合宿を受け入れたのはボクシングと重量挙げ、競泳の選手やコーチら9人。英アストラゼネカ製ワクチンを2回接種し、出国前の検査で陰性証明を得た上で成田空港に到着した。
だが受け入れ先の保健所により濃厚接触者と判定されたのは6月22日。空港からバスに同乗するなどした市職員らも2人目の陽性者の濃厚接触者に当たる恐れがあるとして、念のため自宅待機になった。
大阪府の吉村洋文知事は定例会見で「普通の感覚なら(選手団は)濃厚接触者。成田で陽性者が出た以上、空港に留め置くのが筋ではないか。なぜ移動したのか」と指摘。判定を受けないまま泉佐野市まで移動したことに疑問の声が相次いだが、厚生労働省によると、空港検疫で陽性者が出た場合、機内で同列と前後2列の席の乗客情報を航空会社に確認し、地元の保健所が濃厚接触者かどうかを判定するという。
ただ濃厚接触者の判定は認識が必ずしも共有されておらず、サッカーの国際試合で来日したガーナとキルギスの選手が陽性となった際にも濃厚接触者の判定で混乱。感染者が「バブル」の中に入れば、一転してクラスター(感染者集団)化するリスクも高く、政府や大会組織委員会は濃厚接触の疑いがある人について移動や行動管理の強化に乗り出す方針だ。
デルタ株への対応強化、インドから抗議も
政府は東京五輪を巡る新型コロナの水際対策について、インドで最初に確認された変異株「デルタ株」が流行している国や地域の関係者に対し、出国前7日間、毎日検査を求める方向で関係機関と調整に入っている。
出国前7日間、入国後3日間は行動を共にする関係者以外との接触も禁じる方向だ。対策が強化されるのはインド、アフガニスタン、スリランカ、ネパール、パキスタン、モルディブの6カ国となる見通しだ。
だがこうした追加措置に対し、インド・オリンピック委員会からは「不公平で差別的」との反発が早くも出ている。選手のコンディション調整や移動便の変更などの影響も含め、公平性の観点から今後の新たな問題になりそうだ。
日本に入国した選手や関係者ではウガンダ選手団の2人のほかに、フランス、エジプト、スリランカ、ガーナから来日した計4人が新型コロナに感染していたことも判明。このうちスリランカの1人は関係者が毎日受ける検査で入国後5日目に感染が分かったという。
バブルの中でクラスター化のリスクも
政府は水際対策を強化する対象国に、新たにウガンダやインドネシアを加え、入国後6日間、指定施設での待機を求めるとこのほど発表した。スペインとロシア(モスクワ市、モスクワ州、サンクトペテルブルク市)、ブラジル(ゴイアス州)からの入国者にも入国後3日間待機を求めるという。
ウガンダの1件はまさに「バブル方式」の欠陥を浮き彫りにした形だ。政府がアピールする「安心安全の大会」に向けて大きなハードルが立ちはだかる。五輪関係者から陽性者を1人でも出さないよう厳しく対策するなら、空港検疫から全員にPCR検査を実施するべきとの意見もあるが、空港検疫をすり抜けて合宿地へ移動した後で陽性が判明するケースは今後も起こり得るだろう。
既にリバウンドの傾向も始まっており、五輪開会式までに感染をどこまで抑え込めるかは全く不透明だ。このままでは最悪の場合、バブル方式の中で選手や大会関係者のクラスターが発生し、バブルの外でも感染が広がる可能性も出ている。
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