キス強要問題、五輪メディアも海外で報道
東京五輪・パラリンピック組織委員会は女性蔑視発言で辞任した森喜朗会長(83)の後任として、夏季、冬季合わせて五輪7度出場の実績を持つ橋本聖子五輪相(56)を選任した。1992年アルベールビル冬季五輪のスピードスケート1500メートルで3位となり、日本女子として初めてメダルを獲得。自転車では3度夏季五輪に出場した「五輪の申し子」に、トラブル続きでイメージ失墜の国家的イベントへのかじ取りを託す。
だが新型コロナウイルス禍の難局で早くも不安視されるのが、過去のセクハラ騒動の問題だ。
2014年ソチ冬季五輪閉幕後、選手村で開かれた打ち上げパーティーでフィギュアスケート男子のエース高橋大輔に、日本選手団を率いる団長だった橋本氏がキスを強要したと週刊誌に報じられた一件は、五輪専門サイト「インサイド・ザ・ゲームズ」も2月17日に掲載。国際オリンピック委員会(IOC)委員も愛読するとされる有名なサイトで、女性蔑視発言に続き、各国メディアも報じて再び世界に拡散している。
インサイド・ザ・ゲームズは、新会長選考に至るドタバタ劇や橋本氏の五輪での実績に加え「週刊誌でアスリートに〝襲いかかり〟、セクハラと報じられた」と指摘。橋本氏は「キスを強要した事実はない」と否定した上で「私の行動は甚だ軽率であったと深く反省しております」と謝罪し、高橋も「セクハラ、パワハラとは一切考えていないです」とコメントして当事者間では解決しているが、醜聞が再び蒸し返されればダメージは決して小さくなく、問題視される可能性もはらんでいる。
問われる運営力、森氏の「院政」懸念も
今回、新会長の選考で求められる資質として提示されたのは、国際的な知名度や国際感覚、組織運営の調整力、男女平等の認識など5項目の観点。前代未聞となるコロナ禍の難局で、組織委会長は「大会の顔」として政府や東京都、IOCなどとのタフな交渉や調整といった実務能力も欠かせない。
森氏の2月12日の辞任表明からスピード決着した舞台裏では、日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長(63)やシンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング)の五輪銅メダリスト、小谷実可子氏(54)らも候補者に挙がったが、最も問われたのはこうした交渉力や調整力。東京五輪の準備は今春、開催可否の判断、観客の受け入れ、島根県が中止検討を打ち出した聖火リレーなど重要局面を迎える中、火中の栗を拾う橋本氏に要求されるのはそうした実行力と決断力だろう。
さらに周囲で懸念の声が上がっているのが、橋本氏と森氏の関係だ。もともと政界進出のきっかけをお膳立てしたのが森前会長であり、これまで橋本氏は森氏を〝父〟と慕い、森氏も〝娘〟と公言する関係性をアピールする場面もあった。五輪運営をバックアップして影響力も残す「森氏の院政」に疑念を抱く人も少なからず出てくる見方もある。
「五輪の申し子」、3大会で選手団長も
五輪に7度出場のスーパーウーマンだった橋本氏は、役員でも2016年リオデジャネイロなど五輪3大会で日本選手団の団長を務めた「五輪の申し子」でもある。日本選手団では1988年カルガリー五輪で旗手、1994年リレハンメル五輪で主将と、ともに女性初の大役を担った。
参院議員で多忙の中、JOC副会長のほか、日本スケート連盟会長など多くの競技団体で役職を務めてきた。だがその人柄は決して「剛腕タイプ」でなく、周囲の橋本評は「穏やかで気遣いの人」で一致する。
子供にも「せいか(聖火)」など五輪由来の名
1964年東京五輪の開幕5日前に生まれ、五輪の聖火にちなんで「聖子」と名付けられたという有名な逸話の持ち主。幼少期に腎臓病を患った経験があり、福祉政策への思いから国会議員を志して1995年に参院議員に初当選。選手と二足のわらじを履き、翌年のアトランタ五輪に出場したが、当時は現職の国会議員が五輪に出場した初のケースで、公務軽視などと陰口をたたかれたこともあった。第1子を授かった時も、国会議員に産休取得の前例がなく、風当たりが強かったという。
それでも橋本氏自身が「筋金入りの五輪オタク」を自負するほど五輪への情熱は誰にも負けない。夫との間に授かった子どもには、五輪の開催年に子どもを産みたいという長年の夢が現実になり、父親が与えてくれた五輪の夢を娘に継いで「せいか(聖火)」と名付けた。その後も五輪が由来の「亘利翔(ギリシャ)」「朱李埜(トリノ)」と命名したほどだ。
身長156センチの不利なハンディを猛練習でカバーし、名実ともに「スポーツ界の顔」となる現在の地位を築いた努力の人。JOCが掲げる選手強化のスローガン「人間力なくして競技力の向上なし」も橋本氏が選手強化本部長時代に発信したものである。混迷の東京五輪で失墜したイメージを回復できるのか。男女共同参画担当相を兼ねるなど政治経験も豊富な女性リーダーの手腕が問われている。
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