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MotoGPの若き王マルク・マルケスはどこまで記録を伸ばすのか

2019 7/6 11:00河村大志
6月30日のオランダGPで2位に入ったマルク・マルケスⒸゲッティイメージズ

Ⓒゲッティイメージズ

MotoGPを支配する26歳

2輪ロードレースの最高峰MotoGPで現在、頂点に君臨しているのがマルク・マルケスだ。

マルケスはMotoGPの下のカテゴリーである125cc(現在のMoto3)、Moto2でチャンピオンに輝き、弱冠20歳で最高峰クラスにステップアップした。そして、MotoGP初年度となる2013年シーズンでは開幕戦でいきなり3位表彰台を獲得。続く、第2戦で初優勝し、史上最年少優勝記録を更新した。

この年、シーズン6勝を挙げて、初年度で世界チャンピオンとなった。ちなみに、20歳と266日での最高峰クラスのタイトル獲得は史上最年少記録となった。2015年を除く全てのシーズンでチャンピオンに輝き、今やマルケスが絶対的な存在となっているのだ。

マルケスといえばコーナリング中のバンク角が大きく、膝はもちろん、肘まで擦るライディングスタイルが特徴だ。 そして近年では通常転倒してしまうような場面でも肘と膝を巧みに使い、バイクを立て直す離れ業もマルケスならではの転倒回避法である。

これを可能にしているのがマルケスの高い身体能力である。反射神経のよさ、股関節の柔軟性、そして体幹の強さがマルケスにしかできない転倒回避法を可能にしている。

ライダーにとって一番の練習方法はバイクに乗ることだが、バイクやタイヤのテストが一年中あった時代とは違い、今はテストの日数がかなり制限されている。そこで、ライダー達はサーキット以外でも、モトクロスやダートトラックでバイクに乗り、トレーニングを行なっている。

ただ、マルケスはバイクに乗ることだけでなく、ジムでのトレーニングの量が他と比べて、かなり多いようだ。日本ではナショナルトレーニングセンターというアスリートが使える施設は主にオリンピック選手のみが使用できるが、マルケスの出身地スペインや他の海外の国々では、多くのアスリートが国や州の管理しているトレーニングセンターを利用している。

マルケスもそこでトレーニングを行なっており、特に脳から出た信号を体に伝達する能力を鍛えるトレーニングを重点的に行なっているようだ。マルケスの強さの秘訣である反射神経のよさ、危険を察知した時の修正能力の高さはこのトレーニングで鍛えられている。

最強になるきっかけとなった2015年

前段でマルケスは反射神経がよく、転倒を回避する能力に秀でていると説明したが、実は誰よりも転倒の回数が多い。デビューしてから去年までの6年間で108戦し、106回も転倒している。他のライダーは転倒しても2桁ということからも、マルケスの転倒回数がいかに多いかがわかる。

ただマルケスは常に好成績を残している。優勝はもちろんのこと、ほとんどのレースで表彰台に上っているのだ。転倒するのはあくまでフリー走行、もしくは予選だけなのである。マシンのセットアップを決める重要なフリー走行では、バイクの限界を見つけるために全力でプッシュするため、転倒してしまうが、決勝では見つけた限界を超えない範囲で走るのだ。これがコンスタントに優勝したり、表彰台を獲得できたりする理由でもある。

とはいえ、初めからこのような走りができていたかといえばそうではない。きっかけとなったのは、MotoGPクラスで唯一チャンピオンを獲得できなかった2015年シーズンだ。

2014年は開幕10連勝と他を圧倒したマルケスだったが、2015年は5勝するものの、決勝での転倒が目立ち、ライバルであるヤマハの2台に大きく差をつけられた。速くてもゴールしなければ意味がない。チャンピオンを獲得するには常にポイントを獲得しなければいけないことをマルケスはこの年に痛感した。

そして2016年以降、マルケスは無理しなくなった。勝てる時は確実に優勝し、無理な時はリスクを負わず、確実に表彰台でフィニッシュすることに徹底した。そうすることで、確実にチャンピオンシップポイントの差を広げることができた。

レコードブレーカーのマルケスはどこまで記録を伸ばすのか

今年でMotoGPクラス7年目となるマルケスだが、26歳にして多くの記録を更新してきた。初優勝や初タイトルの最年少記録は彼がまだ保有しており、5回目のタイトル獲得は、バレンティーノ・ロッシの記録26歳と221日を塗り替える25歳と246日で達成した。

タイトル総数(全クラス)はこれまで7回獲得しており、今年チャンピオンになれば歴代6位の8度目の王座獲得となる。バレンティーノロッシの偉大な記録9回にもあと1回に迫っている。

最高峰クラスだけでは現時点で5回獲得しており、ミック・ドゥーハンに並んでいる。今年6回目のタイトル獲得となれば、こちらは歴代単独3位となる。さらにバレンティーノロッシの7回、ジャコモアゴスチーニの最多獲得数9回も見えてきている。まだ26歳で他を圧倒しているマルケスにとって、最高峰クラスで最多タイトル獲得数を更新する可能性はかなり大きいといえる。

そして、全クラスでのポールポジション獲得数ではすでに歴代1位であり、マルケスは現在進行形で歴史を作っている。今MotoGPではさらに若いライダーが高いポテンシャルを発揮している。マルケスがこれからどこまで記録を伸ばすのか、そして記録を伸ばせなくなるようなライバルが現れるのか、MotoGPから目が離せない。

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