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日本人唯一のMotoGPライダー中上貴晶 優勝、そして世界王者へ

2019 6/14 15:00河村大志
中上貴晶Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

成功、挫折を経て世界最速の戦場へ

モータースポーツで4輪の世界最高峰のといえばF1だが、2輪の世界最高峰のといえば、世界最速のライダーとオートバイを決めるMotoGPだ。世界中のファンを魅了するこのレースは、各国から選ばれた23人の天才ライダーだけが参加でき、専用のマシンを使用する。本場ヨーロッパでは、サッカーを凌ぐほどの人気ぶりだ。

今回、そのMotoGPに参戦する中上貴晶は、世界を相手に奮闘するただ1人の日本人ライダーだ。幼い頃に才能を発揮し、14歳の時に全戦全勝という圧倒的な成績で全日本ロードレース選手権GP125クラスを史上最年少で制した。国内で敵無しとなったため、世界選手権参戦を前にスペイン選手権に参戦したものの、ロードレース本場スペインのレベルの高さに付いて行けず、活躍することはできなかった。

それでも何とかステップアップし、16歳でMotoGP125ccクラス(現Moto3クラス)に参戦するが、またしてもそこで世界との差を思い知らされる。参戦した2年で結果を出すことができず、シートを失い日本に戻る他なくなった中上。今までにない挫折を味わった。日本に帰ってきた中上への評価は厳しいものだった。

それから2年、中上の目は再び世界へ向いていた。全日本ロードレース選手権J-GP2クラスでチャンピオンを獲得。再び自ら世界選手権への扉をこじ開け、20歳でMoto2クラスに参戦したのだ。

MotoGPクラス参戦を狙う若く有望なライダーたちがひしめくMoto2。そこで成長した中上は参戦5年目の2016年、世界選手権で初優勝を達成。これは、参戦111戦目の快挙だった。そして2018年、遂に夢にまでみた最高峰、MotoGPクラスへのステップアップを果たしたのだ。

2019年は飛躍の年

世界最高レベルのレースは、ルーキーである中上にとってつらく険しいものであり、MotoGPクラス参戦初年度の2018年は適応するのに苦労した。しかし、ライダーにとって参戦初年度の1年間は、MotoGPの様々なことを理解するための大切な期間なのだ。

MotoGPで1年間の経験を積み、2019年は飛躍の年にしようとしている中上。シーズン前のテストでも常に上位に入り、トップタイムをマーク。すでに今シーズンの活躍を予感させていた。

この好調をキープしたまま迎えた開幕戦では9位に入り、シングルフィニッシュを達成。第2戦は7位、第3戦は10位、第4戦は9位と、コンスタントにポイントを獲得。第5戦ではポイント獲得とならなかったが、第6戦イタリアGPでは力強いパフォーマンスを発揮した。

予選こそ10番手に終わったものの、スタートを決め6番手に。トップグループでのレースは初めてながら、トップ争いに食らいつき、最終的に5位でフィニッシュ。昨年最終戦のバレンシアGPの6位を上回る好成績で、中上にとって自己最高位となった。

昨年のバレンシアは、「ウエットコンディションでのサバイバルレースを生き残った」という内容だったが、今回はドライレースでトップ集団の中で速さを見せての5位。中上自身がベストレースと振り返るほど、見事な5位入賞だった。

世界でわずか23人しか走ることができないMotoGPクラスは、そこに参戦するだけで賞賛に値する。そこで5本の指に入った中上。だが、彼が目指す場所はここではなく、MotoGPクラスでの優勝と日本人初の最高峰クラスでのチャンピオン獲得だ。

大きな挫折を乗り越え、進化し続ける日本人ライダー中上の挑戦はまだまだ続く。

※2019年第6戦終了時