イルーシヴパンサーに必要な最後のピース
京都金杯が中京マイルで行われて3年目。過去2年の3着以内馬6頭中5頭が左回り2勝以上。左回りだからこそ金杯出走に踏み切った馬が狙いだった。今年もこのデータに合致する馬は6頭。結果はそのうち2頭が好走。それが1着イルーシヴパンサー、3着プレサージュリフト。来年からは京都に戻るので、もう使えないデータだが、左回りだから出走するという使う側の意図を読む予想はほかのレースにも応用できる。
勝ったイルーシヴパンサーはこれで全6勝すべて左回りの典型的なサウスポー。3歳6月から東京で4連勝。昨年の東京新聞杯で重賞タイトルを獲得。安田記念では東京巧者を買われ、1番人気に支持されたほどだ。しかし、その安田記念8着、関屋記念11着と左回りで連敗。その影響もあり、今回は5番人気と人気を落としていた。だが、この2戦は左回りではあったが、どちらもスローの瞬発力勝負でペースに恵まれなかった。理想は東京新聞杯のような均衡のとれた平均ペース以上の競馬で、今回はその最後のピースがハマった結果でもあった。
戦略光った岩田望来騎手
序盤はベレヌスとアルサトワが先手争いを演じ、中盤以降は外からダイワキャグニーがベレヌスに絡む形になり、ベレヌスはペースダウンできなかった。さすがに逃げて重賞を勝ったベレヌスがマイペースを決めるのは難しい。向正面周回コース合流後の200m地点から11秒台連発で、前後半800mは46.0-46.7。平均ペースのスピード持続力勝負はマイルに特化した馬でないと乗り切れない。
イルーシヴパンサーは発馬直後に前のポジションをとれないとみるや、さっと最内に滑り込み、目の前に2着エアロロノアがいる絶好位置をとった。馬場のいい最内狙いに作戦を変えた岩田望来騎手の戦略はプランAからBへと手際よかった。これで目の前には福永祐一騎手が乗るエアロロノア。変に下がって来ることはまずなく、馬群のなかで進路をとりやすい。
最初に勝負に出たのはプレサージュリフト。好位のインに収まり、4コーナー出口で外に出してスペースを確保。この形になればもう行くしかない。結果的には目標になり、早仕掛けの形だったが、それはあくまで結果。あの状況では最後に急坂が待っていようがスパートするしかない。イーガン騎手の勝負勘は鋭く、日本の競馬に向いている。
その背後からじわりとポジションをあげたエアロロノアはそのプレサージュリフトとダイワキャグニーの間に入ろうとするも、入れず、外に切りかえて追撃。エアロロノアが入れなかったスペースに飛び込んだのが後ろにいたイルーシヴパンサー。エアロロノアのときにはなかった進路が開いたのは幸運だった。これまで外から差すイメージが強いイルーシヴパンサーにとって新しい選択肢もできた。鞍上の好プレーとイルーシヴパンサーの得意な流れが見事にマッチした勝利。今後も左回りでもスローだと怪しいところだが、ハイレベルな平均ペースに強いのはいつか大舞台で活きるだろう。
巻き返し必至のカイザーミノルとオニャンコポン
2着エアロロノアはインを突こうとしてあきらめ、切り返したロスは痛かった。昨年は安田記念0.2差、マイルCS0.4差、GⅠでもう少しという内容だったが、やはりGⅢレベルなら勝てる力がある。今回は結果的にイルーシヴパンサーをアシストする形になってしまった。昨年の京都金杯では岩田望来騎手がエアロロノアに騎乗しており、その力を知った上でのもの。やはりいい馬にたくさん騎乗する経験は尊い。
内側が伸びる馬場状態だったことを考えると、5着カイザーミノルは再評価しておこう。枠なりに外目を追走、最後も外を懸命に伸びてきた。インで立ち回った組とは真逆の競馬で5着は忘れないでおきたい。枠順や馬場が違えば浮上する余地は高い。また6着オニャンコポンは最後の直線でイルーシヴパンサーとのスペース争いでラチ沿いに押し込められる場面があった。それでも立て直して懸命に伸びており、力はある。今回のような緩みないマイル戦が合うかどうかは微妙だが、こちらも次走巻き返し必至だ。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。
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