クラシック善戦の血
全馬1勝馬。正月早々から始まる桜花賞の挑戦権をかけた戦いは今年も大激戦。4着までたった0.3差。春に向けてわずかな差がいずれ遠くなる。クラシックへの戦いはいつも切ない。僅差を制した5番人気ライラックは3歳春に強い血統背景をもつ。祖母ブルーリッジリバーは暮れの1200mだった01年フェアリーS2着後、クイーンC、フィリーズレビューに出走、桜花賞7番人気2着。先行した伏兵アローキャリーに0.2差及ばなかった。
母ヴィーヴァブーケとゴールドシップの間に生まれたライラックの半兄ブラックホールは、ハイペースの札幌2歳Sを制覇。その後、弥生賞ディープインパクト記念から皐月賞、日本ダービーへ進んだ。ゴールドシップ産駒初年度同期のウインキートスより先に産駒初重賞制覇を達成。2歳夏の重賞勝ちはゴールドシップ産駒のイメージを変えた。翌年の札幌2歳S2着はのちに樫の女王になるユーバーレーベン。ステイゴールド系でもゴールドシップは速攻系。たとえキャリアが浅くても、底力勝負になると頭角をあらわす。
今後はゆったりと成長を促したい
ライラックの父はオルフェーヴルで、ブラックホールとほぼ同血。それでもオルフェーヴル産駒はステイゴールド系らしい晩成型。2歳GⅠを勝ったラッキーライラックもひと皮むけたのは4歳秋。ハイライトはエリザベス女王杯から大阪杯までの1、2、2、1着だった。父は11年クラシック三冠馬ながら、3歳春は皐月賞までシンザン記念2着、きさらぎ賞3着、スプリングS1着と負けも多い戦歴だった。ライラックは母系を背景に父オルフェーヴルの成長力あふれる血が流れており、もっと強くなる。だからこそ、1月フェアリーS勝利の意義は大きい。
レースは前後半800m47.6-47.6のイーブン。後方追走から4コーナー手前で外をまくり気味に進出、直線で再加速して勝負を決めた。緩みなきペースを追いかける心肺機能と持続力にオルフェーヴル譲りの瞬発力、ミルコ・デムーロ騎手が現状、使える力をすべて引き出した。一見大味な競馬ではあるものの、溜めるだけ溜めて末脚を一気に開放する、デムーロ騎手らしい競馬。瞬発力を引き出す騎乗は、2歳女王サークルオブライフやユーバーレーベンなど最近、牝馬と手が合う理由だろう。
関西遠征で減った馬体をさらに減らし、当日馬体重は420キロ。ステイゴールド系らしい小柄な体に想像以上の力強さを宿す。春に向けて無理に出走させなくてよくなり、ゆったり成長を促せる。
使うレースを最小限に、これが昨今のトレンド。ライラックが桜花賞で好走できれば、フェアリーSの未来も変わる。事実、昨年の勝ち馬ファインルージュは桜花賞3着、紫苑S1着、秋華賞2着。我々もフェアリーS組だからと軽視せず、柔軟に考えたい。
東京で見直したい馬たち
2着は1番人気スターズオンアース。内枠からインの好位と正攻法の競馬だったが、最後の直線で外に行こうとしてあきらめ、インを突いてきた。外から内に進路を急に振ったことで、スターズオンアースは過剰に反応してしまったか、内にささった。石橋脩騎手が左に体を傾け、必死に修正。ライラックとの差はたった0.1差。2着で賞金加算には成功したものの、じっくり春を展望するには勝っておきたかった。
3着7番人気ビジュノワールは1戦1勝馬だけに前半置かれ気味。こちらもインコース追走から外に出す際に手間取った。仕掛けのタイミングが遅れながらも最後はよく伸びてきた。このレースの後半800mは12.3-11.8-11.6-11.9。ライラックが最後までしっかり加速したので、最後もラップが落ちなかった。前が止まっていない流れを差してきたわけで、末脚の確かさを示した。東京の自己条件なら2勝目は近い。
2番人気エリカヴィータは10着。4コーナーで大きな不利は受けたが、前半で置かれ、4コーナーでライラックのように加速できなかった。不利は痛かったが、それ以前にレースに参加していない。中山コース向きの加速力はないようで、こちらも決め手をいかせる東京で見直したい。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』 シリーズ全4作(星海社新書)。
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