武豊騎手、22回目の騎乗で初制覇
武豊騎手が朝日杯FS(旧・朝日杯3歳S)にはじめて騎乗したのは94年スキーキャプテン2着。翌年95年もエイシンガイモンで2着。まさかそこから26年、武豊騎手がこのレースを勝てないとはだれもが思いもしなかっただろう。
この間、98年エイシンキャメロン、15年エアスピネル、19年タイセイビジョンと2着になること合計5回。舞台が阪神にかわっても未勝利のまま。いつしか、武豊騎手、朝日杯FS未勝利は“競馬界の七不思議”といわれるようになった。
そして今年、競馬界のレジェンドが、ついにドウデュースで朝日杯FSを勝利した。22回目の挑戦での達成だった。ホープフルSはGⅠ昇格から今年でまだ5年目。この勝利で実質JRA・GⅠコンプリートという声さえある。それでも武豊騎手自身は、この勝利を喜ぶと同時に翌週にあるホープフルS勝利に向けて改めて意欲を見せる。さすがレジェンドは妥協しない。挑み続ける姿勢を見習いたいものだ。
苦しくても我慢できたドウデュース
さてレースは1番人気セリフォス中心に進んだ。デビューからすべてマイル戦に出走、新馬、重賞で3連勝。荒れたインを突いた新潟2歳S、控えて上がり最速で伸びたデイリー杯2歳S、マイルでのパフォーマンスは世代屈指。問題は開催11週目を迎える阪神の荒れた馬場。特に内側の傷みが進み、鞍上のC.デムーロ騎手はこの日、芝のレースでは馬場の外目を選んで2勝、内枠を引いたセリフォスへの予行演習は完璧だった。
飛ばす馬は不在、セリフォスはこれまでのレースのように控えれば、荒れたインに閉じ込められる公算が高かった。そこでC.デムーロ騎手はスタートから好位を目指した。内枠から立ち回るとすれば、これしかない。だが、勢いづいたセリフォスが行きたがってしまった。これが結果的にゴール前のひと踏ん張りに響いた。
セリフォスのすぐ前の外にいたのが伏兵のオタルエバー。新潟2歳Sではセリフォスに完敗だったが、手応えのわりにしぶとく伸びるタイプ。このオタルエバーがいた位置がおそらくセリフォスの理想だった。セリフォスの背後の外にいたのがドウデュース。前半800m46.2、ここ2年が45.4、45.2だから、今年は少し緩め。好位セリフォスはドウデュースに対して優位に立っていた。
オタルエバーに阻まれ、4コーナーで外に出せなかったセリフォスは最後の直線で手応えの悪いオタルエバーを弾くようにしてちょっと強引に外目に進路をとる。手応えよく外を進むドウデュースは弾かれてきたオタルエバーと接触、それでもドウデュースはバランスを崩さなかった。馬も騎手も体幹が強い。
外目に出せたセリフォスがラストスパート。それを追うドウデュース。その攻防の場面、ラップは11.2。正直、前にいたセリフォスに利があった。後ろからこのラップ地点で差を詰めるのは並大抵ではない。ドウデュースの瞬発力には目を見張るものがあった。坂をあがるラスト200m12.1。セリフォスも苦しいが、ドウデュースもキツイ。もっとも厳しい地点での踏ん張りでドウデュースが上回った。着差0.1差はその差だ。苦しくても最後まで伸びる、ドウデュースの最後の姿勢は距離が延びるクラシック戦線でも通用することを示す。
見直したいのは4着アルナシーム
2着セリフォスは枠順と馬場の関係に泣いた。内に閉じ込められない戦略を選んだ結果、前3戦のように前半で溜めを作れず、リズムを欠いた。それでも一旦先頭。ドウデュースに最後まで抵抗しており、完敗という内容ではない。結果は2着も、来年の3歳マイル路線の主役に変わりなし。前半で溜めさえ作れれば、残り400~200m11.2でドウデュースを突き放せただろう。本来の形に戻して見直したい。
3着ダノンスコーピオンも勝ったドウデュースと同じく前走1800mのリステッド勝ち。1600mベストではなかった。前半はジワジワと位置が下がる苦しい展開。最後も外を目指して斜めに走りながら、しっかり末脚を使った。内目を通ったことを考えれば、今後見直したい一頭だ。
さらに見直したいのが4着アルナシーム。前走東京スポーツ杯2歳Sでは折り合いを欠き、早め先頭から6着。心配された折り合いはマイル戦でクリア。今回はリズムよく運べた。しかし、枠順が2枠3番。出遅れもあり、最後の直線までずっと内側を通らざるを得なかった。伸びない内側からしぶとく伸びて4着は見逃したくない。前走で戦法がより難しくなった馬、陣営と池添謙一騎手が見事に立て直した。こういった陣営の力はクラシックで武器になる。
2番人気ジオグリフは5着。出遅れからひとまくりで勝った札幌2歳Sはスケールを感じさせるも、マイル戦挑戦は合わなかった。後方から大外を伸びるという大味な競馬しかできず、正直、力を出し切れなかった印象。クラシック戦線に戻すにあたり、変なクセがつかなければいいが。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。共著『競馬 伝説の名勝負 2005-2009 00年代後半戦』(星海社新書)。
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