金縛りのような競馬
今年の舞台は中京芝2000m。中京競馬場のレイアウトはざっくりとらえると、スタンドから見て右半分がのぼり勾配、左半分がくだり勾配。これを一周する芝2000mはスタートから前半1000mを緩やかにのぼるため、スローペースになりやすく、ここで速くなると最後に後方待機馬が逆転する。また隊列が決まると、のぼり区間が続くので、中団以降の馬は動きにくい。そのため金縛りのような競馬がしばしば起こる。鳴尾記念はその典型のようなレースになった。
逃げたのは5歳でオープン入りした8番人気ユニコーンライオン。都大路Sで先手をとったショウナンバルディが正面スタンド前で引いたため、マイペースに持ち込めた。伏兵の逃げ、前半ののぼり勾配に人気馬は動けなかった。そのラップは13.1-11.9-13.0-12.6-12.3。最初の入りが13秒台、先行争いは無風に近かった。
2コーナーで再び、ペースを落とした。番手のショウナンバルディはユニコーンライオンのペースを利用、いわば共犯関係のようなものが成立。この2頭の罠にはまったようなものだった。
フロックではない、後半1000m57秒8
ユニコーンライオンは「対ショウナンバルディ」という意味では、残り800mで自ら先に動いた点が大きい。3、4コーナーの下り勾配は後ろを引きつけたくなるところだが、馬の個性を理解している坂井瑠星騎手は、あえて先に動いた。ショウナンバルディはその地点では動けなかった。
後半1000mは12.2-11.5-11.1-11.1-11.9、最後の600m34.1は出走中第2位の記録。連続して11.1を踏んだ地点で勝負ありだった。前後半1000m62秒9-57秒8という後ろを幻惑した流れとはいえ、最後に11秒台を連発、後半1000m57秒8でまとめたのは力の証。今後も甘く見ない方がいい。
こういった流れになると、後続はなぜ動かなかったのかと指摘される。正確には3コーナーあたりから動ける馬は動いていており、動けない馬が多かったといったところか。ユニコーンライオンは残り800mから11秒台を連発しており、ここに並ぶには相当の脚力が必要で、物理的に厳しかったことは頭に入れておきたい。もしも動くならば、前半1000mののぼり区間だが、この時点でユニコーンライオンにここまで鮮やかに逃げ切られると察知できただろうか。
2着以下で取りあげるならば、5番人気3着ブラストワンピースだろう。岩田康誠騎手らしい内枠からインコースにこだわる競馬が光った。とにかくユニコーンライオンに緩い流れから一気にペースアップされたので、対抗できるとすれば距離ロスを抑えたイン突きしかない。馬場状態が悪い内側をしぶとく伸びたのは荒れ馬場に強いブラストワンピースらしさ。6歳でさらにズブさが出てきたようで、もう2000mは短い。今回は適度に時計がかかる馬場が味方したもので、相手関係があがり、速いラップになったら厳しいだろう。
父ノーネイネヴァーとは
ユニコーンライオンの父ノーネイネヴァーは、日本で走る産駒はこれまで5頭のみ、あまりなじみがない。同馬はアメリカ生まれ、デビュー2戦目で欧州遠征に挑み、フランス・ドーヴィルで1200mの2歳GⅠを勝った。3歳秋のブリーダーズCターフスプリント2着を最後に引退。アイルランドのクールモアスタッドで種牡馬入りした。
その父スキャットダディは、ノーネイネヴァーのほかに米国三冠馬ジャスティファイ、UAEダービー馬メンデルスゾーンなど早期から走れる速攻系を多く送った。日本では高松宮記念を勝ったミスターメロディがいる。
ジャスティファイが勝ったケンタッキーダービーでは産駒4頭出しを果たすなど成長が早く、クラシックに強い血が高く評価されるも、11歳の若さでこの世を去った。ノーネイネヴァーは欧州でスキャットダディの後継として期待される一頭。ユニコーンライオンのように母系にサドラーズウェルズが入る欧州主流の牝系にスキャットダディの早い成長力がマッチするだろう。
早熟の予感があるノーネイネヴァー産駒のユニコーンライオンが着実に力をつけ、5歳で重賞を勝った。こういった血を粘り強く管理、花を咲かせる、この勝利で重賞50勝目の矢作芳人調教師ならではの仕事だ。
父系が速攻系、母系にサドラーズウェルズを持った血統は、たとえ早期に活躍できなくても、古馬になって本格化する。ユニコーンライオンの鳴尾記念はそれを証明した。我々も馬券の損得はあるだろうが、長い目で見つめたい。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。

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