アドマイヤビルゴとショウリュウイクゾのハンデ差
2020年古馬中長距離GⅠを勝った馬はラッキーライラック、フィエールマン、アーモンドアイが引退、現役で今年も走るのはクロノジェネシスのみ。そういった意味ではこの路線も過渡期を迎えつつある。クロノジェネシスと4歳になったコントレイルやデアリングタクトが中心になるだろうが、新星が生まれる好機でもある。
厳冬期の重賞である日経新春杯はそういった新星が誕生するレースでもある。出走馬中重賞勝ち馬は4頭。1番人気は重賞未勝利のアドマイヤビルゴ。なにかと話題が多く、人気先行型だが、同舞台で3勝クラスを勝ち、昇級戦のアンドロメダSも勝利。人気だけでなく実績を兼ね備え、満を持しての2度目の重賞挑戦だった。
だがアドマイヤビルゴは好発から好位3番手をキープするも直線でいざ追い出すと反応が鈍く、10着。同馬と同じ番手グループの外にいたショウリュウイクゾが格上挑戦で勝利。内と外の差こそあれど、展開は互角。それでいてこの明暗はなんなのだろうか。
アドマイヤビルゴとショウリュウイクゾは昨年9月のムーンライトハンデで対戦。舞台は同じ中京芝2200m。3番手から抜け出したショウリュウイクゾをその背後にいたアドマイヤビルゴが差した。この時のハンデがショウリュウイクゾ56キロ、アドマイヤビルゴ54キロ。
2キロ重かったハンデはアドマイヤビルゴのオープン勝利、ショウリュウイクゾの格上挑戦により反転、アドマイヤビルゴ56キロ、ショウリュウイクゾ53キロになり、逆転劇を生んだ。このハンデの妙に気づけば、ショウリュウイクゾは十分買えた。だが、1、10着という結果は単にハンデ差だけが原因ではない。そこには個性(適性)の違いがあった。
強気の先行が持ち味の団野大成
ミスディレクションの逃げは前半1000m1分0秒7のスローペース。その一列後ろにいたアドマイヤビルゴ、ヴェロックス、ショウリュウイクゾにとって絶好の流れ。
だが、それは1000m通過までで、くだり勾配になる残り1200mから11.9-11.7-11.8-11.8-11.7-12.2と後半1200mは息を入れるどころか、一貫して速いラップが並ぶ。いわゆる5ハロン競馬(残り1000mから持続ラップが並ぶ、マイル戦に近い流れ)になり、持続力勝負になった。
アドマイヤビルゴが勝ったムーンライトハンデの残り1200mは13.0-12.6-12.2-11.9-11.1-11.6。いわゆる3ハロン競馬だった。アドマイヤビルゴは勝負所で一旦手応えが悪くなりながら、最後の直線でしっかり加速する、ディープインパクト産駒の典型。日経新春杯のような流れでは、なし崩し的に末脚を削がれ、最後に加速力が残らない。まして道中はショウリュウイクゾがヴェロックスをブロック、そのヴェロックスに押し込められる形で手応え以上にスタミナをロスしていた。
ショウリュウイクゾはオルフェーヴル産駒で先行して安定した成績を残せるものの、あと一歩が足りない内容。ムーンライトハンデのように一旦抜け出しても最後に切れ味を武器にした馬に捕まるような競馬が多かった。それが重賞の舞台で願ってもない5ハロン競馬、自身の長所が合致した形だ。条件戦の緩めの競馬で負けていた馬を格上挑戦でも日経新春杯に出走させた、それが最大の勝因だろう。
こういったタイプの馬なのでこの先も3ハロン競馬になると足りない場面が出てくるだろう。今後の取捨は力のいる馬場、活気ある流れという条件がそろうかどうかにかかっている。
デビュー3年目の団野大成騎手はこれが初重賞制覇。武豊騎手、川田将雅騎手相手に外からブロックするという強気な競馬は印象に残った。思い返せば、雪のなか行われた中山牝馬Sでリュヌルージュ(こちらも格上挑戦)に乗り、強気な先行、14番人気2着があった。キャリアは浅いが中距離戦に魅力があり、芝2200mで先行した場合、前週(1/11)の時点でも【2-1-0-3】、勝利は7、4番人気だった。これは覚えておきたい。
2着ミスマンマミーアは昨年5月烏丸S(3勝クラス)でショウリュウイクゾを差してオープン入りした馬。ショウリュウイクゾとの力関係を考えれば好走しても不思議はないものの、今回は流れを一切無視したドン尻待機からの無欲の追い込み。5ハロン競馬によって前にいた馬たちがみんな苦しくなった結果なので、今回の結果によって次走人気になるならば危険だろう。
一方、3着クラージュゲリエは4歳時に順調さを欠き、再浮上する契機をつかめなかったが、ロングスパート型の2200m戦で流れに乗って抜け出した。これは今後に向けて価値ある好走。ショウリュウイクゾと同じパターンで買いたい。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。
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