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JRA総賞金は15億円超え 12戦連続GⅠ出走を続けたアーモンドアイ 試練を乗り越え輝き続けた3年半

2020 12/29 06:00三木俊幸
アーモンドアイ インフォグラフィックⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

アーモンドアイ プロフィールⒸSPAIA


3冠達成もレース後に熱中症

名前の通り、美人と言っていい美しい瞳の持ち主にして、白のシャドーロールがトレードマーク。そして滞空時間の長い独特なストライドと爆発的な瞬発力、その姿を一目見ただけで人々を魅了する彼女──。

2歳夏、ルメール騎手を背に新潟芝1400m戦でデビューしたアーモンドアイ。結果は2着とその後の活躍を考えるとまさかの敗戦だったと言える。しかし続く2戦目で一変、持ったままで後続を3馬身半突き放す圧勝だった。

3か月の休養を経て挑んだ重賞、シンザン記念。この日の鞍上は戸崎騎手、天候は雨で馬場状態は稍重という条件下でのレースだったが、後方追走から直線一気で鮮やかに突き抜けた。

その後は桜花賞へと直行した。生涯最初で最後の2番人気で迎えたレースは、後方2番手を追走、普通であればラッキーライラックの勝ちパターンではあったものの、上がり33.2という豪脚を披露した。次元が違うという言葉がぴったり、このレースが大記録達成へのプロローグとなった。

続くオークスは、それまでとは違う6番手からレースとなったが、全く危なげのないレースで2冠を達成。秋には秋華賞では史上5頭目の牝馬クラシック3冠達成という偉業を成し遂げた。しかし、オークスと秋華賞のレース後には熱中症を発症。レースで全力を出し切るがゆえのものであり、以後のレースでも常に懸念される不安材料となる。

驚愕の世界レコード

そんな激走の秋華賞から中5週、ジャパンCでアーモンドアイは世界中を驚愕させるレースを披露する。前が止まらない高速馬場ではあったものの、好位からレースを進めて直線で逃げるキセキを交わしてゴール。ロンジンの時計に表示されたタイムは2:20.6、管理する国枝調教師も時計が壊れていたのではないかと冗談混じりに語るほどの圧巻のレースぶりだった。

年が明けて4歳緒戦に選んだのはドバイ遠征。1800mのドバイターフを快勝し、世界デビュー戦を飾ったが、またしても熱中症を発症。日本馬の悲願である凱旋門賞挑戦というプランもあったが、総合的な判断から秋のフランス遠征は断念せざるを得なかった。

帰国後のレースとして選択されたのは、安田記念。スタートで出遅れた上に不利もあり3着に敗れるというまさかの結末が待ち受け、GⅠでの連勝は5でストップした。その後は天皇賞(秋)を勝利し、香港C挑戦に向けて調整されていたが、出国を間近に控えた時に熱発があり断念。

幸い症状自体は軽く、目標を有馬記念に切り替えて出走したが、本調子ではなかったのか9着に敗戦。アーモンドアイにとっては度重なる試練に見舞われたと1年だったと言っていいだろう。

最高の「サヨナラパーティー」

クラブの規定により6歳3月で引退となるため、実質ラストイヤーとなった2020年。またしても試練は続く。連覇を目指してドバイ遠征へと出発したものの、新型コロナウイルスの感染拡大によって開催が中止となり、レースに出走することなく帰国を余儀なくされた。

仕切り直しとなったヴィクトリアマイルは無観客開催。静まりかえったスタンドをほぼ持ったままで駆け抜け、4馬身差をつけて勝利した。この勝利でGⅠ7勝目、シンボリルドルフ、ディープインパクトなど歴代の名馬に肩を並べた。続く安田記念で記録更新が期待されたが、初の中2週が影響したのか2着。安田記念には縁がない競走馬生活だった。

2020年11月1日、天皇賞(秋)。抽選を突破した一部の観客に限定されたが、ファンの目の前で日本競馬の歴史が塗り変わった。レース後のインタビューでルメールが涙したように、うれしさと同時に関係者のプレッシャーは言葉では言い表せないものがあったことは容易に想像できる。同時に引退という瞬間が迫っていることも感じ取れた。

次走は香港かジャパンCか……。様々な憶測が飛び交ったが、正式にジャパンC参戦が表明されるとともに、引退レースとなることも発表された。牡牝とも無敗の3冠馬が誕生した2020年、3冠馬3頭による最初で最後の激突は、ルメール騎手の言葉を借りると「サヨナラパーティー」。

競馬史に残るパーティーはコントレイル、デアリングタクトを寄せつけない完璧なものだった。その走りは後輩3冠馬2頭に「後は任せた」というアーモンドアイからのメッセージもだったようにも感じ取れた。

12戦連続でGⅠレースに出走

GⅠ9勝、海外のレースも含めた総賞金は19億円超え、数々の記録を更新してアーモンドアイの競走馬生活は幕を閉じた。これらの記録はもちろん凄いのだが、キャリア4戦目の桜花賞から引退レースとなったジャパンCまで、12戦連続でGⅠレースを走り続けたということについても触れずにはいられない。

レースで全力を出し切るというタイプということを考慮したものであるが、前哨戦を挟まず、常にぶっつけ本番。そうした中で結果を出し続けた国枝調教師、根岸助手、椎本助手をはじめとした厩舎関係者、牧場関係者の手腕は素晴らしいの一言に尽きる。そしてともに歩んだ3年半、相当なプレッシャーを感じ続けたことだろう。そんなことを考えると、関係者とアーモンドアイには頭が下がる。

生まれ故郷に帰り、母となるアーモンドアイ。早ければ2024年に産駒がデビューすることとなる。また物語の続きを見られる日を楽しみにするとともに、同じチーム・スタッフで新たな偉業に挑戦する姿を見てみたい。

ライタープロフィール
三木俊幸
編集者として競馬に携わった後、フリーランスとなる。現在は競馬ライターとしてだけでなく、カメラマンとしてJRAや地方競馬など国内外の競馬場で取材活動を行っている。

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