五輪選手25人輩出、高校時代は内村航平も
25人の五輪選手を育て、男子個人総合で五輪2連覇の内村航平氏も高校時代に在籍した朝日生命が4月20日、2022年度限りで名門クラブの体操事業から撤退すると発表し、スポーツ界に衝撃が広がった。
1974年に発足したクラブによると、幼児コースなどを含めると現在約750人が在籍。海外から留学してきた選手の受け皿にもなり、東京都世田谷区の施設を拠点に約半世紀にわたり、トップから底辺まで幅広い層を育成してきた。しかし近年は低迷が続き、昨夏の東京五輪では代表選手を1人も出せなかった。
最近まで指導に当たってきた2004年アテネ五輪団体総合金メダルの塚原直也氏は3月末で総監督を退任。所属選手の受け入れ先はクラブが探している。
「月面宙返り」で有名な五輪3大会金メダルの塚原光男氏と妻千恵子氏の塚原夫婦が指導者として強化の中心となり、長男直也も所属。女子では1992年バルセロナ大会の小菅麻里、2004年アテネ大会の大島杏子と石坂真奈美、2008年北京大会の鶴見虹子ら多くの五輪代表を育てた。
施設老朽化、2018年に「パワハラ騒動」も
朝日生命は社会貢献として多くのスポーツ支援を行ってきたが、2000年代初頭の不況に伴い、藪恵壹(元阪神)も所属した野球部やテニス部を廃部。その他事業も大幅に縮小した一方で、看板事業の体操は支援を続けてきたが、協賛から撤退の理由として施設の老朽化やこれまでの支援で一定の役割を果たしたことなどを挙げ、総合的に判断したと説明した。
同社から業務委託されていた「塚原体操センター」は運営を継続する方針で新たな施設などを探す。
近年では2016年リオデジャネイロ五輪代表の宮川紗江選手が告発し、塚原夫妻が当事者となった2018年の「パワハラ騒動」も起こり、ネガティブな印象を残した。
新型コロナウイルスの影響もいまだに残る中、今年に入ってからはスピードスケートやラグビーでも廃部や活動休止の動きが出ており、東京五輪が終わり、企業の支援を巡る環境は厳しさを増している現状が浮き彫りになった形だ。
塚原直也氏は新たな道も模索
朝日生命撤退のニュースは「寝耳に水」だった体操界を驚かせたが、選手や関係者に立ち止まっている時間はない。
体操の世界選手権(10~11月・英リバプール)代表選考会を兼ねた個人総合の全日本選手権は4月23日、東京体育館で女子決勝が行われ、予選1位で通過した19歳の山田千遥(朝日生命ク)は3位となった。2018年ユース五輪代表に選ばれた実力者だ。
体操クラブの総監督を退任した直也氏は4月から不動産事業の「立飛ホールディングス(HD)」に入社し「体操ディレクター」の肩書で既に働いている。同社は立川市を拠点に多岐にわたるスポーツ事業に参画しており、今後は体操の普及や発展に取り組むという。
こうした現状を踏まえ、陸上男子400メートル障害の元五輪代表、為末大氏は自身のツイッターで「今後企業スポーツの撤退が相次ぐはずです。その背景を理解し変化できないと流れは止められないと思います」と指摘した。
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