ロンドンで開幕、賞金総額33億円で計8大会
世界の男子ゴルフ界が、国際政治やビジネスを巻き込んで大きく揺れている。物議を醸しているのは、サウジアラビアの政府系ファンドが支援する超高額賞金の新ツアー「LIV招待」だ。
サウジの潤沢なオイルマネーを背景に、賞金総額は2500万ドル(約33億7000万円)と超破格。6月11日、48選手が参加した開幕戦の最終ラウンドはロンドン郊外で開かれ、3日間54ホールストロークプレーの個人戦で2011年マスターズ覇者のシャール・シュワーツェル(南アフリカ)が通算7アンダーで優勝し、賞金400万ドル(約5億3600万円)を獲得した。個人戦の優勝賞金は、マスターズの270万ドルを大きく上回る。
シュワーツェルは1組4人の12チームで争う団体戦でも優勝して2冠を達成し、1人当たり75万ドル(約1億800万円)をゲット。わずか3日間のトータルで6億4000万円を稼いだ計算だ。今季を含めた直近4シーズンの獲得賞金総額を超え、驚くことに自身の4年間を3日間で超えてしまったことになる。
LIV招待を最高経営責任者(CEO)として率いるのは“ホワイト・シャーク”の異名を取り、世界各国で90勝以上を挙げている往年の名選手、グレグ・ノーマン(オーストラリア)だ。破格の契約金を提示し、メジャー王者を含むトップ選手を勧誘したとされる。
大会は予選落ちもなく、24オーバーで48位と最下位に沈んだアンディ・オグルトゥリー(米国)でさえも賞金12万ドル(約1610万円)を獲得した。
今年はロンドンを皮切りに米ボストンやバンコク、サウジなどで8大会を開催する予定だ。
ミケルソンら「流出」続く米ツアー、参加17人追放
一方、賞金が破格のLIV招待と米ツアーとの分裂は深まるばかりだ。
人権問題などで非難されるサウジの政府系ファンドが資金源であることが反発を招き、米ツアーは、メジャー通算6勝のフィル・ミケルソン(米国)や元世界ランキング1位のダスティン・ジョンソン(米国)、マスターズ覇者のセルヒオ・ガルシア(スペイン)らLIV招待に参加した17人の選手に対して事実上の「追放処分」を科した。
2001年9月11日の米同時多発攻撃の遺族を支援する団体も、新ツアー参戦を表明したミケルソンらを公開書簡で「巨額の金銭と引き換えに、サウジがスポーツで悪評を洗浄することを手助けしている」などと批判。サウジ政府は関与を否定するが、約3000人もの死者が出た同時多発攻撃に関与したハイジャック犯の大半がサウジ出身とされているからだ。
欧米メディアの批判は厳しく、反政府記者の殺害事件、女性や同性愛者への人権軽視なども問題視され、新ツアーも国のイメージ向上を図る一環と指摘している。
こうした背景を踏まえ、2億ドルの契約金で新ツアーに参戦したと伝えられるミケルソンはもともと知名度も高く、矢面に立たされている一人だ。米メディアからは「ミケルソンがPGAツアーの他選手たちに声をかけては勧誘した」とも報じられている。
米メディアによると、男子ゴルフでメジャー通算18回の優勝を誇る「帝王」ジャック・ニクラウス氏(米国)は「新ツアーの顔」として1億ドル(約130億円)以上もの巨額オファーを提示されたが「どれだけ金額を積まれても興味はない」と断ったという。人気選手のタイガー・ウッズ(米国)も10億ドル近い巨額のオファーを断ったと伝えられる。
一方で米ツアーによる処分発表後も、飛ばし屋で人気のブライソン・デシャンボー(米国)の参戦が判明するなど「流出」が続き、事態は予断を許さない状況だ。
ビジネスか名声か
英メディアなどは今回の騒動を受け「2022年は『スポーツ・ウォッシング』の年だ」と報道。スポーツ・ウォッシングとは、国や組織が人権侵害や言論弾圧、人種や性差別などで悪化したイメージを「washing(洗濯・洗浄)」するために非政治的に見える大型スポーツイベントを開催することを意味する。
米ツアーのモナハン・コミッショナーは超高額賞金の新ツアーに参戦する選手ついて「彼らは金銭的な理由で選んだ。ビジネス優先か名声をとるか。同時に米ツアー会員の特権を求めることはできない」と厳しく批判して「追放処分」をちらつかせるが、強硬姿勢には「流出」への強い危機感がにじむ。
これに対し、LIVゴルフ側はメジャー優勝経験者の参戦を次々と発表し「PGAツアーの発表は執念深く、ツアーとそのメンバーの間の溝を深めるものだ。ゴルファーのプレーを妨害するのは理解に苦しむ」と反論。男子ツアーを揺るがす騒動は今後も波乱含みの展開となりそうだ。
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