「絶対にF1に行く」という想いが再び世界に押し上げた
F1直下のカテゴリーでF1を目指す実力者が参戦するFIA F2。今年のF2でひとりの日本人ドライバーが戦っている。GP2、F2で3年戦い、国内に戻りながらも再び世界の舞台に復帰した松下信治だ。
GP2を含めF2で戦った3年間で、F1参戦に必要なスーパーライセンスを獲得できなかった。3年間のヨーロッパ生活を終えた松下は2018年に日本に戻り、国内最高峰のフォーミュラカーレースであるスーパーフォーミュラで戦うことになった。
ヨーロッパで結果を残せず帰ってきたドライバーに、再び海外に挑戦するチャンスはほぼ皆無である。しかし松下はF1を諦めていなかった。
スーパーフォーミュラ開幕戦の予選でいきなり速さを見せるもラストアタック直前で赤旗が出てしまい予選12位に終わるという不運に見舞われた。第5戦ではポテンシャルの高さを証明したものの、シーズン全般で流れをつかめずランキング10位でシーズンを終えた。
松下をサポートするホンダは、国内でも結果を残せない松下を再びヨーロッパに戻す予定はなかった。ところが彼は「諦めない」気持ちを行動に移していく。
F2に参戦するには2億円以上の持参金が必要になるため、自らスポンサー獲得に動き続けた。積極的にチームに話を聞きに行ってシートの空き具合を確認したり、自身のアピールをした。
松下のF1に対する想いの強さに周りの支えが加わり、応援してくれる人が増えていった。レース業界内でも実力を認めている者は多く、その評価が大きな後押しとなった。
松下を認める声、優勝はできなかったが周りに見せつけたポテンシャルの高さ、そしてF1に対する執念がホンダを動かし、松下を再びF2に押し上げた。
タイヤとトラブルに苦戦した前半戦とF2マシンを「完璧」に理解した中盤戦
F2に見事復帰した松下だったが、久しぶりのF2マシン、そしてピレリタイヤのマネージメントに苦しんだ。さらにマシントラブルも相次ぎ前半戦は実力を発揮できなかった。
もともとスピードには定評のある松下は、第2戦アゼルバイジャンGPでポールポジションを獲得し、シーズン前半から速さを証明していた。しかし、このレースもトラブルに泣き結果に結びつかなかった。
ようやく表彰台に上がったのは第4戦モナコレース1。フリー走行でトラブルに見舞われるも、決勝で見事巻き返して2位となり、さらに第6戦オーストリアGPのレース1で今季初優勝を収めた。
この時には課題であったタイヤマネージメント、レースの組み立て方を完璧に自分のものにしていた。その後も安定してポイントを獲得し、第10戦イタリアGPのレース1で2勝目をマーク、レース2でも5位に入りランキング6位につけた。
それでも厳しいF1への道。松下がF1に乗るためには?
松下はイタリアGP終了時でランキング6位につけている。
F1に乗るためのスーパーライセンスを取得するには、40ポイントが必要だ。これまでに松下はスーパーライセンスポイントを10点獲得しており、今季のF2でランキング4位に入れば30ポイントが与えられる。
F1に乗る条件を満たすには、今シーズンのあと2戦、4レースでランキング4位以内に入らなければいけないのだ。
現在ランキング6位の松下は116ポイント、ランキング5位のセルジオ・セッテ・カマラが151ポイント、ランキング4位のジャック・エイトキンが153ポイント、ランキング3位のルカ・ギオットが155ポイントとなっている。
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F2のレース1での優勝が25ポイント、レース2での優勝が15ポイントしか与えられないことを考えると40ポイント近い差は大きい。松下には残り2レースで最低でも表彰台でのフィニッシュが求められる。レース1で8位以内に入るとレース2はリバースグリッドでスタートする。つまりレース1で上位に食い込めばレース2もポイント圏内でレースができるという事だ。
ライバル達とのポイント差を見てみると松下にはレース1で優勝、そしてレース2で表彰台という完璧な成績が求められる。加えてライバル達の結果次第という条件も付き、ランキング4位という目標は厳しいものである。
しかし、シーズン中盤から後半にかけて、松下はレースをまとめる力があり、常に表彰台、そして優勝を狙えるドライバーへと成長した。
ギオット、エイトキン、セッテ・カマラの3名は歯車がかみ合えば驚異的な速さを発揮する猛者達である。
ただ、この3名とも共通しているのは安定感がない事だ。優勝もするがノーポイントも多いドライバーでもあるため、松下には最後の最後までプッシュしてもらいたい。
序盤戦でのミスやトラブルで大きく差を開けられてしまったが、今やF2トップドライバーとして速さ、強さを見せつけている。これまで逆境をはねのけてきた松下なら4位以内に入ってくれるだろう。F1のシートをかけた松下の戦いから目が離せない。