シニア5年目、GPで初めて表彰台逃す
まさに信じ難い光景だった。フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ第3戦、フランス杯最終日は11月2日、フランスのグルノーブルで行われ、男子ショートプログラム(SP)で失意の4位から巻き返しを期した21歳の宇野昌磨(トヨタ自動車)はフリーでジャンプの転倒が相次いで136.79点の9位と振るわず、合計215.84点で自己ワーストの8位に終わった。
メインコーチを置かずに挑んだ今季のGP初戦。シニア5年目でファイナルを含むGP13戦目で初めて表彰台を逃した。シリーズ上位6人で争われるファイナル(12月5~7日・トリノ)は絶望的な状況となった。
世界選手権2連覇中のネーサン・チェン(米国)がSP、フリーともに1位の合計297.16点で第1戦のスケートアメリカに続いて貫禄のGP2連勝を果たし、ファイナル進出を決めた。
ⒸSPAIA
3回転半2本とも転倒
演技後に得点を待つ「キス・アンド・クライ」。2018年平昌冬季五輪銀メダリストの宇野は不本意な出来にも観客の温かい「ショーマ・コール」を聞くと、思わず失意の涙を浮かべた。
今季初めて組み込んだ冒頭の4回転のサルコーは回転不足で着氷が乱れ、フリップでも氷に手をついた。得意なはずのトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)は2回とも回転軸が傾いて派手に転倒。SPで2度、フリーでは3度もジャンプで転倒する目を覆うような異例の事態。4回転トーループからの連続ジャンプは着氷したが、二つのスピンはレベル2(最高は4)と大きく崩れた。
自身の公式サイトで「新しいスタートになりますが、不安は一切有りません。一つ一つ真摯に取り組み、僕の理想とする演技に近づけるよう全力で努力していきます」とコメントして新シーズンに挑んだが、試練の幕開けとなった。
新たな冒険、救世主はランビエルか
主要タイトルに手が届かない殻を破るべく、宇野は今年6月、5歳から師事した山田満知子、樋口美穂子の両コーチのもとを離れ、人生の冒険と位置付けて再出発を期した。だが新たな練習拠点とコーチを探したが見つからず、結局、シーズンインしてからもコーチ不在の状態が続いている。
フィギュアのジャンプは繊細な技術であり、メンタル面にも大きく左右されるといわれる。トップ選手の場合、専属のメインコーチ以外に複数のサポート態勢が組まれていることも珍しくない。心技両面で支えとなる指導者を置かないのは異例で、競技の特性上、安定感や完成度を高めるには第3者的な目線を持つ外からの助言を受けられる環境は必要だろう。得意だったトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)まで狂いが生じ始めている。
低迷の一因は明らかだが、新たなコーチをつけるかどうかの決定は年明け以降の見通しという。今後はオフに指導を受けた元世界選手権王者のステファン・ランビエル氏の母国スイスに移動し、次戦のGP第5戦ロシア杯(11月15、16日・モスクワ)に備える。島田高志郎(木下グループ)も師事する2006年トリノ五輪銀メダリスト・ランビエル氏の協力を仰ぎ、崩れたジャンプを早急に修正して立て直しを図れるか。
この試練を乗り越え、自分の殻を破った先に、さらに強くなった宇野が戻ってくるだろう。
フィギュアスケート関連記事一覧