フリーで自己ベストに迫る演技
大会前に交通事故のアクシデントに見舞われたフィギュアスケート女子の本田真凜(JAL)が満身創痍の体で魂のこもった熱演を見せた。2016年世界ジュニア選手権女王でアイドル的な人気を博す18歳のホープは、ここ数年の苦境を脱して非凡な才能を開花させる光が見えてきた。
グランプリ(GP)シリーズ第2戦、スケートカナダ最終日は10月26日、ケロウナで行われ、女子は15歳でGPデビュー戦のアレクサンドラ・トルソワ(ロシア)がフリー1位の166.62点、合計241.02点で逆転優勝。フリー、合計の得点でいずれも自身の持つ世界最高得点を更新する驚異的なスコアをマークした。
ショートプログラム(SP)首位の紀平梨花(関大KFSC)はフリー2位の148.98点、合計230.33点で2位。本田はSP10位からフリーで自己ベストに迫る120.06点の6位と巻き返し、合計179.26点で6位に入った。
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タクシー衝突事故で右すね打撲
日本連盟によると、事故が起きたのは開催地のケロウナで10月22日、田中刑事(倉敷芸術科学大大学院)と非公式練習からタクシーでホテルに戻る途中だった。タクシーが前方の車両に衝突し、後方の車両からも追突を受けた。後部座席の中央に座っていた本田は右すねを打撲して額も打ち、救急車で運ばれたという。
右脚に大きなサポーターを施して臨んだSPは不安と苦境の中で精いっぱいの演技を披露。予定した3回転フリップが2回転になって規定により得点がゼロになるミスもあったが、足や首の痛みをこらえて最後までやりきった。
フリーは出場できるかどうかの可否で直前まで揺れ動きながら、自らの意思で氷の上に笑顔で登場。「ラ・ラ・ランド」の音楽に合わせ、冒頭の3回転フリップから3回転の連続ジャンプ、3回転サルコーなどジャンプを全て着氷させた。
自己ベストに3.18点に迫る改心の演技を終えると、両手を突き上げてガッツポーズ。キスアンドクライではお茶目にハートマークを作り、明るいムードで笑顔を振りまいて会場を沸かせた。
天才肌が巻き返しへ
シニア3年目となる今季の目標は「頑張る!」―。2018年平昌冬季五輪代表をつかめず、昨季は練習拠点を米国に移して再出発。環境の変化にも不慣れのまま、GPシリーズのスケートアメリカは8位、フランス杯は6位、全日本選手権は15位と思い描いたような結果が残せなかった。
新たに師事したラファエル・アルトゥニアン氏はかつて浅田真央を教え、世界王者になったネーサン・チェン(米国)の師匠でもある。もともとジャンプは連続3回転を複数の組み合わせで跳べる非凡さを併せ持ち、ジュニア時代から感性とセンスにあふれる「芸術家」とも評された天才肌。満身創痍の状態で熱演した今大会は表彰台には届かなかったが、観客の胸を打つ演技だったことは間違いない。
ロシアのジュニア勢が躍進する今季のフィギュア界で、思い出したスケートへの情熱と愛情。笑顔を取り戻した世界ジュニア女王は次戦の中国杯(11月8~9日)からさらなる巻き返しを期す。
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