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羽生結弦、世界初の大技成功で鬼門のカナダ初優勝

2019 10/28 15:38田村崇仁
羽生結弦Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

チェンの世界最高に肉薄の自己新

フィニッシュポーズで片膝を着き、力強く右拳を握りしめた姿に久しぶりの充実感が漂った。フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ第2戦、スケートカナダ最終日は10月26日、カナダのケロウナで行われ、男子は24歳のエース、羽生結弦(ANA)がショートプログラム(SP)に続いてフリーも1位で合計322・59点で初優勝し、ファイナルを含むGP通算11勝目を挙げる好スタートを切った。

3月の世界選手権で屈した最大のライバル、ネーサン・チェン(米国)が持つ世界最高に0.83差に肉薄する自己ベストをマーク。鬼門のスケートカナダはこれまで2013年、2015年、2016年と過去3度出場して全て2位だったが、フリーで3種類の4回転ジャンプを計4度着氷して212.99点をたたきだし、2位のナム・ニュエン(カナダ)に合計で59.82点の大差をつける圧勝だった。

現地で大会前に交通事故に見舞われたSP5位の田中刑事(倉敷芸術科学大大学院)がフリー3位となり、合計250.02点で3位に入った。

前人未到の4回転半は封印

思い入れの深い2季連続で滑る演目「秋によせて」で別次元の輝きを放った。今大会は前人未到のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)や4回転ルッツへの挑戦を封印。それでも五輪2連覇の実績を持つ絶対王者は冒頭の4回転ループで着氷がやや乱れながらも崩れなかった。

続く4回転サルコーは美しく着氷し、中盤の4回転トーループは出来栄え点(GOE)3.94点の加点。基礎点が1.1倍になる後半に入ると、世界初の大技、4回転トーループ―つなぎの1回転(オイラー)―3回転フリップを成功させ、圧巻のGOE4.07点を引き出し、一気に驚異的な20.90点を積み上げた。

羽生フリー詳細ⒸSPAIA

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スピン3本、ステップはすべて最高評価のレベル4を獲得。3月の世界選手権で20点以上の大差をつけられたチェンから世界王座を奪還する光明が着実に見えてきたのは間違いない。

演技点は5項目全て9点台

海外メディアも「円熟のパフォーマンス」「氷上を支配」などと称賛する別格の演技。表現力を示す演技点の5項目は全てで9点台をそろえる非の打ちどころがない内容だった。今季の羽生はプログラムの成熟を目指し、SPもフリーも昨季と同じ曲を使っている。ただ演技の「完成度」というテーマで言えば、より高みを追求して模索する羽生らしく、まだ満足感はないようだ。

今季初戦で優勝した9月のオータム・クラシックからはスコアとジャンプの精度で確実にステップアップ。今大会のSPでも今季世界最高の109.60点で首位に立った。世界が注目するクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)や4回転ルッツはシーズンのどの段階で投入してくるのか興味は尽きない。もちろん持ち味は高度なジャンプの技術だけでなく、きめ細やかな動作や表現力でもある。

GPシリーズの成績上位6人が出場するファイナル(12月5日開幕、トリノ)はけがなどの影響で最近2大会は出場がない。年末の全日本選手権も3年連続で欠場している。「自分との戦い」とも位置付けるシーズン。今季のGP初戦を幸先よく制し、絶対王者の新たな挑戦がまた始まった。

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