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宇野昌磨、前人未到の5回転ジャンプ挑戦?コーチ不在で新シーズンへ

2019 7/27 11:00田村崇仁
新シーズンはコーチ不在で臨む宇野昌磨Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

グランプリ東海を「卒業」

どんな世界でも慣れ親しんだ環境を変えることは当然リスクもあり、ある種の賭けとなる。フィギュアスケート男子で人気と実力を兼ね備え、さらなる飛躍を期す21歳のホープが大きな決断を下した。2018年平昌冬季五輪銀メダリストの宇野昌磨(トヨタ自動車)。冬季五輪2連覇に輝いた羽生結弦(ANA)の背中を追う1番手の存在だが、今月15日、新シーズンに向けてメインコーチを付けない異例の体制で臨む考えを明らかにした。

5歳のときからグランプリ東海で指導を受けてきた山田満知子、樋口美穂子両コーチの下を離れることを発表し、周囲を驚かせたのは6月上旬。

「この度、私、宇野昌磨は長年お世話になっていたグランプリ東海を卒業いたしました。背中を押して送り出して下さった先生方、また、多くの方々に支えられているこの競技人生に感謝の気持ちを忘れず、新たなスタートを切りたいと思います」

自身の公式サイトで「卒業」に至った心境をこう説明した。

海外を拠点に移すことも視野に入れているが、当面は中京大を拠点とし、2002年ソルトレークシティー五輪男子4位の本田武史氏から月に数回、ジャンプの指導を仰ぎながら「自分探しの旅」に出て自らの可能性を探求する計画だ。

振り付け師は世界的名手

フィギュアの世界では採点時に待機する「キスアンドクライ」で通常、コーチが横にいるが、新シーズンはどうなるのか。

宇野は来季のショートプログラム(SP)の振り付けを世界的な名手でカナダ人のシェイリン・ボーンさん、フリーを同じくカナダ人のデービッド・ウィルソン氏に依頼することも自身の公式サイトで発表している。「2人が持つアイディアは自分の引き出しからは全く想像できないものが多く、とても楽しみにしています」とコメント。ボーンさんは羽生が金メダルを獲得した平昌五輪のフリー「SEIMEI」などの振り付けでも知られる。これまで試合用の演目は樋口コーチが全て振り付けていたが、海外の振付師に依頼するのは初めてだ。

「卒業」を表明後、6月には本場のロシアで合宿を敢行。平昌五輪女王のアリーナ・ザギトワ(ロシア)らを指導するロシア人のエテリ・トゥトベリゼ・コーチの短期合宿に参加した。高難度の4回転ルッツを跳ぶ世界ジュニア女王のアレクサンドラ・トルソワらロシアの有力女子選手が多く在籍しており、新たな環境で武者修行に挑んだ形だ。

5回転は基礎点未設定

宇野は昨季、2月の四大陸選手権でシニアの主要国際大会初優勝を成し遂げた。だが4月の世界選手権では4位にとどまり、3季ぶりに国際大会の表彰台を逃した。

来季に向けフリップ、サルコー、トーループの3種類だった4回転ジャンプの種類を増やすことにも意欲を示している。新たな武器として考えているのが4回転のルッツとループ。4月末の練習では基礎点が設定されていない前人未到の5回転ジャンプにも初挑戦したことを明かした。種類はトーループ。「超大技」への本格挑戦の優先度はさすがに低そうだが、楽しみながら自らの殻を破ろうとする意欲が伝わってくる。

2022年の北京五輪に向けた貴重なシーズン。求めていく環境は、トップレベルの選手と切磋琢磨しながら、練習から4回転ジャンプの火花を散らすような緊張感だ。

プラス材料少ないが…

新たなシーズン、コーチ不在で本当に進めていくとすれば、どんな競技であれ、原則プラス材料となることは少ないだろう。特に、採点競技であるフィギュアスケートの場合、常に外からの目線でつぶさにチェックしてもらう存在は必要だ。

今後は8月にSPとフリーを振り付け、9月にはスイスに渡り、2006年トリノ五輪男子銀メダルのステファン・ランビエル氏(スイス)の下で練習を積みシーズンに臨む予定。ロシア合宿なども含め、世界は着実に広がりつつある。

かつて同門の先輩・浅田真央も経験があるという異例のコーチ不在。これまでの環境から飛び出し、新たなステージに自分を押し上げるシーズンは、悲願の世界一に向けた挑戦となる。

宇野 昌磨(うの・しょうま)15年世界ジュニア選手権王者。16年4月に国際スケート連盟公認大会で史上初めて4回転フリップを成功した。18年平昌冬季五輪で銀メダル。17、18年の世界選手権、グランプリ(GP)ファイナルで、いずれも2位。全日本選手権3連覇。浅田真央らを育てた山田満知子、樋口美穂子両コーチに師事してきた。中京大、トヨタ自動車。159センチ、21歳。愛知県出身。

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