憧れの浅田真央以来、8年ぶり6人目
一回りも二回りも成長した今季を締めくくる完全燃焼の演技だった。フィギュアスケート女子で北京冬季五輪銅メダリストの21歳、坂本花織(シスメックス)が3月25日、世界選手権(フランス・モンペリエ)で初の頂点に立ち、世界一の金字塔を打ち立てた。
中継局のインタビューで「やっと完全燃焼できたなって思って。三度目の正直で」と3度目の挑戦でつかんだ栄冠に目尻を下げてはしゃいだのも無理はない。
五輪で金、銀メダルの強豪ロシア勢が不在とはいえ、日本勢の世界女王は憧れの存在だった2014年大会の浅田真央以来8年ぶり6人目。大技の4回転ジャンプやトリプルアクセル(3回転半)を跳ばなくても、技の完成度や表現力で勝負し、フリーで155.77点を出してショートプログラム(SP)に続いて1位となり、自己ベストの合計236.09点で初制覇した。
SP、フリーとも表現力で圧倒的な評価
SPは五輪メダリストの重圧をはねのけ、3つ全てのジャンプを決めるほぼ完璧な内容で自己ベストの80.32点をマークし、2位に5.32点差の首位発進。大技のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を跳ばなくても、自身初の80点超えを確認すると「びっくり」「驚きでしかない」と目を丸くしておどけて見せた。
得点を伸ばせた要因は、2回転半ジャンプから幕を開けたジャンプのGOE(出来栄え点)の高さと安定感、表現力を示す演技構成点だろう。ダイナミックな冒頭の2回転半はGOE1.65点、フリップ―トーループの2連続3回転は2.12点をマーク。演技構成点は5項目全て9点台を並べ「パフォーマンス(身のこなし)」で10点満点をつけるジャッジもいた。
フリーでも冒頭の2回転半ジャンプでジャッジ9人中7人が最高評価「5」をマーク。演技後半は得点源の2連続3回転に成功し、最後の3回転ループを降りて演技を終えると、右拳を振り下ろし「うれしさが爆発しました」とガッツポーズで感情を解き放った。表現力を示す演技点は、ただ一人5項目全てで10点満点中9点台を並べた。
フィギュア女子の新たな歴史に仲間入り
日本勢の歴代世界女王は1989年の伊藤みどりに始まり、1994年の佐藤有香、2004年の荒川静香、2007年と2011年の安藤美姫、2008年と2010年と2014年の浅田真央と過去に5人いた。
女子フィギュアの新たな歴史に名を刻み、中野園子コーチと笑顔で抱き合った坂本は「坂本花織を信じなさいって言われて。自分を最後まで信じて、先生を最後まで信じて良かった」と感謝の気持ちを口にした。
今大会はロシア勢がウクライナ侵攻の影響で出場が認められなかったが、北京五輪ではロシアの一角を崩し、世界最高峰の舞台でも堂々と表彰台の真ん中に立った。「今年に入ってから自分の肩書が変わったなって感じた」という両肩にのしかかる重圧も乗り越え、表彰台で「君が代」に涙を流した。
「この1カ月、今までで一番大変だった。この経験は五輪に出て世界選手権にも出た人しか味わえない大変さだと思う。これを乗り越えることができたのですごくうれしい」と複雑な心境も語った。
来季の出場枠「3」もしっかりと勝ち取り、激動の今季を締めくくった世界選手権。心身ともたくましくなった坂本はさらなる進化を見据え、持ち前の笑顔でまた大きな一歩を踏み出す。
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