豪快ジャンプ、全日本で3年ぶり2度目V
成長を証明した自身へのクリスマスプレゼントだった。
フィギュアスケート女子で21歳の坂本花織(シスメックス)が12月25日、さいたまスーパーアリーナで行われた北京冬季五輪代表最終選考会を兼ねた全日本選手権でショートプログラム(SP)に続いてフリーでもトップの154.83点をマークし、国際スケート連盟(ISU)非公認ながら自己ベストを更新する合計234.06点で3年ぶり2度目の優勝を果たした。
飛距離に出る持ち前の豪快なジャンプは圧巻の出来。2大会連続となる北京五輪代表入りを決め、トレードマークの屈託ない笑顔を輝かせた。
高校2年で勢いに乗って代表入りし、6位入賞だった2018年平昌冬季五輪から4年。4回転やトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)といった大技はなくても、重圧が懸かる最終滑走のフリーでは高さも踏み切りから着氷までの幅もある完璧なジャンプで出来栄え点を稼ぎ、表現力の高さと演技の完成度でもライバルを圧倒するスコアで頭一つ抜けた実力を証明した。
「自分自身へのクリスマスプレゼントができるようにしたい」と宣言した通り、会心の演技で終えると、最後のポーズからそのまま右手でガッツポーズ。優勝決定後の中継局インタビューで「もう今は幸せでいっぱい。目標にしていた(五輪への)一発内定を有言実行できて、今はもう、心がスカっとしています」とコメントすると、うれし涙が止まらなかった。
演技後半に見せ場、表現力で5項目9点台
4年前とは違うのは圧倒的な表現力。五輪への執念が実を結び、今季日本女子で唯一、グランプリ・ファイナル(中止)の出場権を得るなど成熟したスケーターになった底力を改めて見せつけた。
SPではISU非公認ながら自己ベストを更新する79.23点をマーク。得点を確認すると、顔の前で交互に両手を回す独特のポーズで喜びを爆発させた。高難度構成で一度は諦めかけた今季の新フリー「No More Fight Left In Me」。冒頭のダブルアクセル(2回転半ジャンプ)を丁寧に降りると、全てのジャンプを着氷し、ほぼ完璧な圧巻の演技だった。
そして最大の見せ場は基礎点が1.1倍になる演技後半だ。フリップ―トーループの2連続3回転などジャンプは7つ全てで成功。「思い切り楽しくやろう」と決意した通り、女性の強さを体現するプログラムにシーズン序盤は苦しんだが、濃密な技のつなぎを丁寧にこなした。ステップ、スピンも最高評価のレベル4で全てそろえた。
演技後半の見せ場は消耗する構成に負けない体力が必須でもある。昨春、実家を出て始めた一人暮らしでは1時間のランニングが日課という。
テレビのインタビューでは「『フェラーリ』って言われてます。エンジンがかかるまで最初は時間がかかるけれど、かかりだしたらすごく動く」と笑わせながらも、後半のスタミナは抜群。平昌五輪シーズンから演目を振り付けるブノワ・リショー氏とも修正を繰り返し、新型コロナウイルス禍の自粛期間はバレエやダンスも習った。手足の指先まで神経が行き届く表現力と完成度の高さを最後まで諦めなかった。
演技構成点は「演技表現」の9.54点を筆頭に、全5項目で10点満点の9点台。平昌五輪代表を決める4年前の全日本選手権からフリーの演技点は7.50点もアップし、満員の観客もスタンディングオベーションで祝福した。全日本で驚異的な総合力を証明した。
紀平梨花らの分もロシア勢に完成度で挑む
2度目の舞台となる北京冬季五輪へ世界を席巻するロシア勢の驚異的な強さは本人が一番理解している。2位の樋口新葉(明大)に10点以上の大差をつけ、高くて分厚い壁には演技の完成度をさらに高めて勝負に挑む。
全日本3連覇が懸かった紀平梨花(トヨタ自動車)が右足首の疲労骨折で欠場し、初の五輪への道が閉ざされた。彼女たちの分も五輪までに演技を磨き「ノーミスでパーフェクトにいかにするかが大事」と来るべき時に備えていく覚悟だ。
ロシア勢も15歳のカミラ・ワリエワを筆頭に4回転時代をけん引するが、牙城を崩すことは不可能ではない。日本女子の顔、坂本はジャンプ、ステップと持ち前の力強い演技に加え、磨き上げた表現力とここ一番の勝負強さで悲願のメダルに挑む。
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