世界国別対抗戦の男子フリーでGOE3.04点
新型コロナウイルに揺れた激動のシーズンを締めくくる今季最後のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)は非の打ちどころのない美しさだった。出来栄え点(GOE)3.04の加点を引き出す完璧な内容。フィギュアスケートの世界国別対抗戦は4月16日、丸善インテックアリーナ大阪で6カ国が参加して争われ、男子フリーで26歳の羽生結弦(ANA)は、3連覇が懸かる2022年北京冬季五輪への懸け橋となる本人も納得のジャンプを成功させた。
羽生にとってトリプルアクセルは目をつぶっても跳べると絶対の自信を持つ代名詞のジャンプ。2019年のスケートカナダでは異例のGOE満点(3回転半は4.00点)を出したこともある得意技だ。
だが3月の世界選手権(ストックホルム)では同じフリーで得意のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)が2度とも決まらなかった。それだけに「今できる自分のベスト」と来季への手応えをつかむ武器を取り戻したのは大きい。
スケート人生の目標と公言する前人未到の超大技「クワッドアクセル」(4回転半)の成功へと続く道に一筋の光をつかんだ締めくくりとなった。
男子SPは今季自己ベストでVサイン
スウェーデンの世界選手権から帰国後はホテルとリンクを往復するだけの隔離期間。万全の状態とはいえなかったが、男子ショートプログラム(SP)はコロナ禍で沈む国内外に明るい話題を届けようと選んだロック曲「レット・ミー・エンターテイン・ユー」に乗せ、今季ベストの107.12点をマークしてライバルのネイサン・チェン(米国)に次いで2位発進した。演技を終えると日本チームの応援席にVサインも送った。
前半のジャンプは圧巻の出来。4回転サルコーと4回転―3回転の2連続トーループはともに力みなく着氷し、出来栄え点(GOE)で4点以上も加点を引き出した。4回転サルコーはジャッジ7人中4人が満点。後半のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)も着氷で前傾になりながら何とかこらえ、五輪王者の意地を示した。
上杉謙信を演じたフリーは来季への布石に
戦国時代の最強武将・上杉謙信を演じる今季最後のフリー曲「天と地と」は序盤の4回転サルコーで回転が抜けたものの、今季自己ベストの193.76点で2位に入った。表現力を示す演技構成点は5項目全て9点台。冒頭の4回転ループでもきれいに着氷してGOE3.36点を加点し、美しい放物線を描いた最後のトリプルアクセルも3点以上の加点だった。
男子フリーは世界選手権3連覇のチェンが203.23点で1位となったが、トリプルアクセルの加点はチェンの2.08点を羽生が大きく上回った。今季最後のジャンプを来季への布石とするために感覚を研ぎ澄ませた覚悟のジャンプでもあった。
2年に一度開催される世界国別対抗。男子シングルに羽生と宇野昌磨(トヨタ自動車)、女子シングルに坂本花織(シスメックス)と紀平梨花(トヨタ自動車)、ペアには三浦璃来、木原龍一組(木下グループ)、アイスダンスは小松原美里、小松原尊組(倉敷FSC)が参戦した日本は107点で総合3位だった。ロシアが125点で初優勝した。
超大技「4回転半」を組み込んだ「完成形」は来季に
羽生は人類初の4回転半ジャンプを組み込んだ「完成形」を五輪シーズンに持ち越した形だが、海外の専門家もこの新たな挑戦に注目している。
4月17日には世界国別対抗戦のエキシビションに向けた公式練習で4回転半ジャンプに挑戦する姿を見せた。公の場の練習で見せたのは2019年12月のグランプリ(GP)ファイナル以来。助走のスピードや踏み切りのタイミングを変えるなど試行錯誤しながらトライを続け、この日は成功こそできなかったものの、前人未到の大技に周囲の視線をくぎ付けに。
欧州衛星放送局『EUROSPORT』でフィギュアスケートの解説をするイタリア人識者のマッシミリアーノ・アンベシ氏も自身のツイッターで「ジャンプは未完成で転倒もあったけれど、印象としては徐々に完成に近づいている」と期待を寄せた。
超大技ジャンプの輪郭ははっきり見えつつある。これまでも史上初の4回転ループ成功や、66年ぶりに五輪連覇を果たすなどフィギュアスケート界の歴史を塗り替えてきた羽生。北京冬季五輪が控える来シーズンは険しく高い壁に挑むからこそ、期待も高まってくる。
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