SP首位からフリーで精彩欠いて3位
フィギュアスケートの世界選手権最終日は3月27日、ストックホルムで行われ、冬季五輪2連覇中のエース羽生結弦(26)=ANA=がまさかの逆転を許し、4年ぶり3度目の世界一を逃した。
ショートプログラム(SP)で首位発進しながら、フリーで得点源のジャンプが完璧に決まらず、ミスが続いて4位と精彩を欠き、合計289.18点で3位だった。
SP3位のネイサン・チェン(米国)が4種類計5度の4回転を決めてフリー1位で逆転し、合計320.88点で3連覇を達成。これで羽生は最大のライバル、チェンとは過去9度、同じ大会に出場して4勝5敗となり、平昌五輪後の直近は3連敗となった。
SP2位につけた初出場の17歳、鍵山優真(神奈川・星槎国際高横浜)が2種類計3度の4回転ジャンプに成功したフリーで2位となり、合計291.77点で2位と大健闘。SP6位と出遅れた宇野昌磨(トヨタ自動車)はフリー3位と巻き返し、合計277.44点で4位だった。
珍しく乱れた「バランス感覚」
最終滑走で登場した羽生の王座奪回は成らなかった。2020年12月の全日本選手権(長野)と同じ水色の華やかな衣装で登場。戦国武将・上杉謙信を演じるフリー曲「天と地と」が奏でる和のメロディーに乗って演技を開始したが、冒頭の4回転ループで手を付き、さらに4回転サルコーの着氷でバランスを崩す痛恨のミスが響いた。
後半の4回転トーループからの連続ジャンプ、3連続ジャンプを立て続けに決めたものの、得意のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)も乱れて減点と立て直せなかった。羽生が大一番で持ち味の「バランス感覚」を乱すのは珍しい。自身でも驚く「負の連鎖」が起きてしまった。
超大技の4回転半ジャンプへ進化の途中
悔しそうに顔をしかめた演技直後のテレビインタビュー。「波に乗れなかった」と振り返った羽生は「全体を通して細かいミスで全て抑えられているところは、地力が上がったんじゃないかな。正直悔しいけど、収穫もある試合になった」とも前向きに受け止めた。
成功すれば世界初となるクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)の習得を目指す過程で筋力が向上。新型コロナウイルス禍で超大技に挑戦を続ける進化の途中でカナダの拠点に戻れず、日本で孤独な練習を続けた日々は苦しかったという。
他のジャンプも前例のない挑戦の相乗効果で安定感が増している自信は膨らんでいたが、100グラム単位で体重を調整する体を酷使している分、ミリ単位の感覚でジャンプに微妙に影響した可能性もある。
ロック曲のSPは圧巻の演技で106点台
それでもSPは羽生らしさが全開だった。新型コロナ禍でも「僕なりのメッセージ」として明るい話題を届けようと選んだ英国の人気歌手、ロビー・ウィリアムズのロック曲「レット・ミー・エンターテイン・ユー」に乗せ、無観客の会場で圧巻の演技を披露した。
「今日は今日で出し切れた」とうなずいた106点台。冒頭の4回転サルコーは回転軸が傾きながら着氷をこらえ、4回転―3回転の連続トーループ、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)も滑らかに降りた。スピンやステップでも躍動し、激しいビートに合わせた滑りも切れがあった。
ライバルのチェンは王者のすごみで3連覇
一方、羽生の宿敵チェンはフリーで巻き返した王者のすごみと底力が光った。SPでは珍しくジャンプで転倒したものの、同じ過ちは繰り返さない。4種類5本の4回転ジャンプは全て質が高く、最高難度のルッツ、フリップ、サルコー、基礎点が1.1倍の後半に連続ジャンプで2度のトーループと圧巻の内容だった。
表現面などを10点満点で評価する演技構成点はほとんどが9点台後半のハイスコアを示し、フリーで自身が持つ世界最高得点に迫る222.03点をマーク。羽生に約30点差で逆転での3連覇を達成した。
自身の世界歴代最高得点には及ばなかったが、羽生との直接対決はこれで3連勝。それでもチェンは羽生を最大のライバルと同時に尊敬する選手と位置付け「真のレジェンド(伝説)で革命を起こした人。彼がレベルを引き上げ、進化を導いた。彼からもっと学びたい」と謙虚さを失わない。そんな姿勢が彼の強みでもあるだろう。
北京五輪へ超大技の取得に闘争心再び
3連覇が懸かる来年の北京冬季五輪と4回転アクセルへのビジョンを問われると、羽生はテレビインタビューで収穫と課題を隠さずに語った。
「まだ着氷しているわけではないけど、自分の中でやっと4回転半というジャンプらしくなってきたものが結構あったので来シーズンに向けてしっかり練習したい。アクセルをやるにあたって体だったり、酷使しなくてはいけないと思うので、しっかりケアしながらけがをしないように自分が進化していけたら」
今回の世界選手権で投入を見送った4回転半ジャンプへの思いは人一倍強い。ハードルが高ければ高いほど、誰も成功したことがない超大技へ挑戦だからこそ、燃え上がるものがあるはずだ。自然体で臨む姿勢だった世界選手権でまさかの3位に終わったことで、闘争心が再び覚醒させられたこともあるだろう。
前人未到の大技を組み込むプログラム構成へ、さらなる進化を目指す1年がこの敗戦から始まる。以前は明確に目指す意思を示さなかった北京五輪に関しても「ベストを尽くして心待ちにしたい。今すぐ試合がしたい」と来季への意欲を新たにした。
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