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全米フィギュア5連覇のネイサン・チェンが羽生結弦をリスペクトする理由

2021 1/19 19:00田村崇仁
ネイサン・チェンⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

伝説の名手リチャード・バトン以来の5連覇

フィギュアスケート男子で世界選手権2連覇中の21歳、ネイサン・チェンが1月17日まで米国ネバダ州で行われた全米選手権で5連覇を達成した。1946~52年に伝説的な名選手、リチャード・バトン氏が7連覇を遂げて以来の偉業だ。

バトン氏と言えば、26歳の羽生結弦(ANA)が2018年平昌冬季五輪で66年ぶりに達成した「五輪連覇」の快挙を1948年サンモリッツ、1952年オスロ大会で記録したレジェンドでもある。史上初めて3回転ループに成功し、羽生と同じく技術面の開拓者で美しい演技を愛するところも共通している。

新型コロナウイルス禍で例年より大会数が減る中、スケートの基礎練習を徹底して取り組んだチェンは、全米選手権のショートプログラム(SP)で高難度の4回転ルッツ、4回転フリップを決めて悠々と首位発進した。

フリーでは冒頭の4回転ルッツで着氷が乱れたものの、フリップ、サルコー、トーループを含めた4回転を次々と成功させ、ステップ、スピンも全てレベル4を獲得。208.36点をマークし、合計322.28点で堂々の頂点に立った。

2017年世界ジュニア王者で20歳のビンセント・ゾウが291.38点で2位、26歳のジェーソン・ブラウンが276.92点で3位に入り、3月の世界選手権(ストックホルム)代表に決まった。

フィギュア全米選手権成績

名門エール大休学、羽生結弦の演技に「感銘」

米東部の名門エール大学で統計学を学び、現在は休学中というチェンと羽生は互いに尊敬し、ライバルと認め合う唯一無二の存在だ。

チェンはこのほど米フィギュアスケート専門誌「インターナショナル・フィギュア・スケーティング・マガジン」の電話インタビューに応じ、2020年12月の全日本選手権で圧巻のパフォーマンスを見せて5年ぶり5度目の優勝を成し遂げた羽生の強さについて改めて「感銘を受けた」と語っている。

異例のシーズンで自らも孤独と向き合い、羽生の演技に大いな刺激を受けたチェンは「彼がコロナ禍で1人でトレーニングをしていることも、それがとても過酷でどんなにタフかということも知っている。だからそんな状況で試合でも高いレベルを維持できていることは本当に称賛に値する」と強調した。モチベーションの維持には北京五輪の存在があり、自分がリンクの上にいる時は逆にトレーニングだけに集中できるとも打ち明けている。

羽生結弦との勝負は「特別な感覚と経験」

フリーでループ、サルコー、トーループの3種類4度の4回転ジャンプを成功させて合計319.36点をマークした羽生の演技を振り返り「とても強かったと思う」と素直な印象も明らかにした。

さらに「いつも言っていることだが、ハニュウ(羽生)と戦うのは他ではありえない特別な感覚と経験であり、僕はそれが大好きでいつも楽しみにしている」と世界選手権での再戦に向けて高ぶる気持ちを隠そうとしなかった。

「彼が滑っているのを見ることができて、同様にショウマ(宇野昌磨)の滑りも見ることができたのは素晴らしい時間だった。ライブのスケートを見ることができたのはすごい久しぶりだったが、本当に良かった」と振り返ったチェン。「またどんな大会でも彼と戦う日が来ることをいつも楽しみにしている」と意気込みを新たにした。

3月の世界選手権で競演へ

世界王者のチェンは、羽生が世界初の成功を目指すクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)への挑戦についても言及した。

「こういう大ジャンプには常にリスクがある。現時点では賢明な判断ではないと思う」

10代半ばまで続けていた体操の経験から空間認識能力に優れ、5種類の4回転ジャンプ(トーループ、サルコー、ループ、フリップ、ルッツ)をいずれも非常に高いレベルで跳ぶことができるが、現段階では練習には取り組んでいないと説明し、消極的な姿勢を示している。

「大ジャンプに伴うリスクを考えた場合、怪我をしてしまったら回復するまでの時間も必要になる。絶対にやらなくてはいけないものではない」と心境を明かした上で「うまくいけば、将来挑戦するかもしれない」とも続けた。

「4回転の貴公子」とも呼ばれるチェンはかつて羽生を「常に尊敬する象徴的な存在」と称し、羽生はチェンを「自分がスケートをするモチベーション」と表現した。コロナ禍で先行きは不透明だが、3月の世界選手権で2人の競演が実現すれば、どんな勝負となるのか―。多彩なジャンプや演技に宿る表現力だけでなく、ステップやスピンといった細部も含めた両者のハイレベルな戦いは見逃せないところだ。

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