3年ぶり通常開催実現したツール・ド・フランス
自転車ロードレース最高峰の大会「ツール・ド・フランス」(略してツール)の2022年大会が7月1日に開幕した。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大にともない、一昨年は当初予定より2カ月遅れ、昨年は東京五輪日程との兼ね合いも生じて例年より1週間前倒しというイレギュラー開催だったが、今回は3年ぶりとなる通常開催が実現した。
オリンピック、サッカーW杯とならび、世界三大スポーツイベントに数えられることもあるこの大会。世界規模のビッグな催しとあって、開催地はフランスだけにはとどまらない。今年は初の北欧開催としてデンマークの首都・コペンハーゲンで開幕。同国で3ステージ(1日1ステージずつこなしていく)走り、その後はメインの舞台であるフランスのほか、ベルギー、スイスにも入国する。
過去2年は新型コロナウイルス対策が徹底され、「選手からの感染者をゼロにする」との大会側の目標が達成された。大会関係者からの感染者は数例あったものの、レース運営には支障は出ず、主催者であるフランスのスポーツイベント運営会社A.S.O.(アモリ・スポル・オルガニザシオン)の統率力を改めて示す形になった。
そして迎えた2022年大会。フランス、デンマークともに感染者が多く発生している現状だが、これまでのような新型コロナ対策はまったくと言ってよいほど施されていない。出場選手にはレース前後でのマスク着用は求められているものの、筆者を含む報道陣や大会関係者への対応は必要とされず、マスクを着用しているのは日本からの取材者くらい、というのが実際のところである。
他の競技と同様に、「アフターコロナ」の趣きが進み、もはやコロナ前のレースシーンに戻ったといっても過言ではない自転車ロードレース界。世界最大のレースイベントで、大きなトラブルなく会期を終えられるだろうか。
ⒸA.S.O./Charly Lopez
ツールが自転車都市コペンハーゲンに夢を与える
さて、コペンハーゲンでのツール開幕は、自転車業界にとっては大きな意味合いを持つものとなっている。
この街は長年にわたり「世界一の自転車都市」と呼ばれ、その街づくりは環境保護、人々の健康増進、そして経済効果にもつなげてきた。もっとも、ツールがこの街を開催地に選んだのも、「都市レベルで自転車インフラが整備されており、自転車が人々の日常に根付いているから」と主催者が明言。環境にやさしく、健康的な乗り物として、国を挙げての自転車活用を推進し、コペンハーゲンはより魅力的な都市になった。
コペンハーゲン市内の道路には必ずと言ってよいほど自転車専用レーンが敷かれ、中心部に至ってはそのレーンがサイクリストで埋まるほどの盛況ぶり。実際のデータとして、2018年時点で市民の49%が通勤・通学に自転車を活用しているとのアンケート結果もある。同市では「2025年段階での市民の自転車活用率50%」を目指してきたが、現時点でその目標が達成されている可能性が高い。
ⒸSPAIA(撮影:Syunsuke FUKUMITSU)
さらに深掘りしていくと、市民が自転車を活用する理由として「一番早い移動手段だから」がナンバーワンだという。1960年代に国が勧めた自動車優遇政策の名残として、市街地の交通渋滞が問題となっている中、自転車はそれらに煩わされることなく目的地へと向かっていけるメリットがある。同国では、長距離列車・電車・メトロ・バスといった公共交通機関への自転車持ち込みが許可されており、その一台でどこへでも行けるよう配慮がなされている点も大きい。
筆者も実際に市内での取材地移動でレンタサイクル(コペンハーゲン市内には数種類のレンタサイクルがいたるところに用意され、スマートフォンアプリで乗降管理ができる)を活用してみたが、とにかく快適で、自転車専用レーンを走っていればどれだけスピードを出しても問題視されない。
スポーツバイクに乗るサイクリストが、日本の道路事情では考えられないようなスピードで飛ばしていく…なんて光景も目にした。ちなみに、コペンハーゲン市内の自転車の平均時速は約16kmとのデータがあり、ラッシュアワーともなれば時速20km以上で走る人が増えるといわれる。
それにもかかわらず、OECD(経済協力開発機構)が2011年から2015年にかけて30カ国以上を対象にした調査では、コペンハーゲンが最も自転車事故による死亡率が低い都市であるとされ、安全性の高さも証明されている。
最先端の取り組みによって人々と自転車とのかかわりが根強いコペンハーゲンで、世界最高峰の自転車ロードレースが開催される。選手たちが見せるスピードやテクニックは、自転車とともに暮らす国民に大いなる刺激を与えたに違いない。ツール・ド・フランスは、デンマークの夢をかけた壮大なプロジェクトといえよう。
ⒸSPAIA(撮影:Syunsuke FUKUMITSU)
3連覇かかるポガチャルも順調なスタート パリ・シャンゼリゼ目指す
ツール2022年大会は、7月1日から24日までの会期(移動日または休息日が計3日設定)で開催される。
コペンハーゲンで行われた大会最初のレース、第1ステージは個人タイムトライアル(1人ずつコースへと出走し、そのタイムを競う)が行われ、イヴ・ランパールト(クイックステップ・アルファヴィニル、ベルギー)が優勝。所要時間が最も少ない選手が着用できるスペシャルジャージ(自転車ウエア)の「マイヨジョーヌ」に袖を通した。
また、大会3連覇を目指す23歳のタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)は3位の出足。彼は最終的にトップに立っていればよいので、大会初日としてはこれ以上ないポジションにつけたといえる。
ここから最終目的地パリ・シャンゼリゼ通りに向かって、全21ステージを走る。大会中盤にはアルプス山脈、後半にはピレネー山脈といった険しい山々が控えており、どんなドラマが待ち受けているか。感動と驚きの3週間が今まさに始まったところだ。
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