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ツール・ド・フランスのコースの決め方、自治体による招致の裏側と動くお金

2021 6/26 06:00福光俊介
2019年にブリュッセルで開幕したツール・ド・フランス
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ⒸA.S.O./Alex BROADWAY

スポーツ・観光・政治を織り交ぜた柔軟なコースづくり

自転車ロードレース最高峰の大会「ツール・ド・フランス」の2021年大会が6月26日に開幕する。そこで、世界有数のスポーツイベントであるこの大会の歩みと成功の理由を探ってみたい。今回は、3週間で約3500kmを走破する長旅をどのように作り上げているか、コース設定について見ていく。

ツール・ド・フランスとは、日本語に訳すと「フランス一周」。1903年の第1回大会から、忠実にフランス本土を一周するルートが設定された。1950年代までは本土の輪郭を描き出すように走っており、その様子は教育現場で子供たちに国土の外観を教えるための教材としても使われたほどだった。

この頃はスタート・フィニッシュ地も固定されており、スタートは1950年までパリ市内で。大会のフィナーレは1967年までパリの自転車競技場「パルク・デ・プランス」(現在はサッカースタジアム)で迎えていた。現在はパリ・シャンゼリゼ通りで閉幕するのが慣例だが、これは1975年が最初と比較的新しい。

いまでこそフランスにとどまらず、近隣諸国へと出向くようになったツールだが、その始まりは1947年。隣国のベルギーとルクセンブルクに立ち寄ったのが最初である。以来、レース中一時的に国境を越えることは珍しい光景ではなくなった。とりわけ、大会の開幕をフランス国外で飾ることが多く、107回中23回を他国でスタートしている。

最近では2019年にベルギーの首都・ブリュッセルで開幕。来年は初の北欧開幕としてデンマーク・コペンハーゲンから走り出すことも決定している。

2019年にブリュッセルで開幕したツール・ド・フランス

ⒸA.S.O./Olivier CHABE


こうしたルーティングは、国外へ出向くようになってから観光要素が強まっていったといわれている。もともとは政治色が濃く、ドイツとの国境問題を煽るべく領土紛争地域をあえて通過したこともあった。

ただ、現在ではレース中継中にコース近くの観光地が映し出されたり、アルプスやピレネーの山々の雄大さを感じさせるような見せ方が進化し、それに並行するように選手たちが走るコースも美しく、魅力あるところばかりとなっている。

3週間走るルートは2年前にはほぼ決定

とはいっても、ただ「綺麗」というだけでコースを作ったのではツールらしくない。3週間走り続けるルートには、それなりの思いが込められている。もちろん、世相を反映したケースもある。

例えば、マーストリヒト条約(欧州連合条約)が調印された1992年は、同年11月のEU発足を記念してスペイン、フランス、ベルギー、オランダ、ドイツ、ルクセンブルク、イタリアの7カ国を踏破。ドーバー海峡トンネル(英仏海峡トンネル)が開通した1994年には、フランス側の玄関口であるカレーがコースに採用された。

3週間のルートの大枠は、当該大会の2年前にはほぼ決まっている。情報化が進む今では、大会を主催するA.S.O.(アモリ・スポル・オルガニザシオン)の担当者が地方都市を訪問していたとのリークも少なくなく、ヨーロッパのサイクルメディアではルート確定前から予想記事が作られることもしばしば。

なかでも開幕地は2年前の段階ですでに確定しているのが慣例で、大会初日から数日間のコースが第一弾情報として主催者から発信されるスタンスが常となっている。

観光要素が強いと前述したコースづくりだが、もちろんスポーツ性も大きなウエイトを占めている。主催者サイドが重視する点として、「いつ、誰にでも巻き返しのチャンスが与えられるようなコース」を掲げており、平地・山岳といった地形から、風・路面状況といった外的要因までを考慮して、3週間のフランス一周を形作っていく。

実際、大会終盤に勝負がもつれたり、最終日前日に「世紀の大逆転」が生まれるなど、主催者の狙いはほぼ毎年かなっているといえる。

ツール招致の裏側、権利料13億円の噂も

毎年変わるツールのルート。では、どのようにして3週間・全21ステージを作り上げているのだろうか。

誰にでもチャンスがめぐってくるようなコースを作るとて、スタート地点とフィニッシュ地点となる街を設定することが前提となる。「グランデパール」と呼ばれる大会開幕地となる街は、長いこと主催者へラブコールを送り続けた末に、実現を果たしている事例が多い。もちろん、大会途中で立ち寄る街も同様で、そうした声に応えようと主催者も全力を尽くす。

その逆で、主催者側が何としても組み入れたいとの理由で自治体との根気のいる交渉を行っている場合も。周年記念の回や、世相を反映させたいときは、おのずと主催者の意向による街選びが多くなってくる。

自治体サイドも二つ返事でツールを呼び込むことばかりではなく、インフラが整っていないとの理由で拒否したり、招致のために年間予算を増やして街の整備に動くケースなどもあり、簡単に事が運ぶわけではない。

また、招致には大きなお金が動く。特にグランデパールに選ばれるためには、最低でも200万ユーロ(約2億6千万円)は権利料として支払う必要があるといわれている。街の規模が大きいとそれだけ観客動員や手配するスタッフ・関係者が増えることから、200万ユーロでは足りないことの方が多い。2007年の開幕地ロンドンは、1000万ユーロ(約13億2千万円)を主催者に支払ったとの噂だ。

開幕地以外では、スタート地のみの選出の場合は6万ユーロ(約800万円)、フィニッシュ地のみだと9万ユーロ(約1200万円)を支払い、開催の権利を購入している。

ほぼ毎年ツールが訪問するフランス南東部の街・ポーのように、これらの支払いを年間予算として準備している自治体もなかには存在する。かと思えば、長い歴史の中で初めて到達する街もあるなど、自治体ごとにツールとのかかわりはまちまち。初訪問の街であろうと、常連であろうと、共通しているのはツールの到来は街を挙げての一大イベントになることである。

2021年大会はブルターニュ地方で開幕

第108回目を迎えるツール・ド・フランス。今回は同国北西部・ブルターニュ地方の街・ブレストで開幕する。ブルターニュはフランスの中でも特に自転車熱の高い地域であり、昔から今に至るまで好選手を輩出し続けている。

2021年ツール・ド・フランスのコース図

ⒸA.S.O.


ブルターニュで大会序盤を過ごしてからは、フランス中央部を抜けてアルプス、ピレネーの両山脈へ。途中では、隣国アンドラにも足を延ばす。そして7月18日、パリ・シャンゼリゼで2021年大会のフィナーレを迎える。

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