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モロニーが判定に異議も那須川天心の完勝が浮き彫りになるデータ、スピードと技術は世界レベルを証明

2025 3/10 06:00SPAIA編集部
那須川天心vsジェイソン・モロニー,ⒸSPAIA

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ラウンドごとの有効打数とジャッジの採点ほぼ合致

プロボクシングのWBOアジアパシフィックバンタム級王者・那須川天心(26=帝拳)が2月24日のノンタイトル10回戦で前WBOバンタム級王者ジェイソン・モロニー(34=オーストラリア)に判定勝ちした。

天心はキックボクシングからボクシング転向後6連勝(2KO)。ダウンシーンこそなかったものの、スピードとテクニックで前世界王者を翻弄し、ジャッジ2人が97-93、1人は98-92とつける完勝だった。

しかし、試合後にモロニー陣営が判定に異を唱え、一部のファンが賛同するなど議論を呼んだ。確かに天心は6回にモロニーのワンツーを顎に受け、ダウンは辛うじて免れたものの尻もちをつきかけた。足を止めての打ち合いではモロニーに分があり、天心は鼻血を出し、右目の下を腫らした。

とはいえ、一発のダメージではなく、クリーンヒットの数を重視するボクシングの採点基準では、天心の勝利は明白だ。SPAIAが独自に集計したデータが全てを物語っている。

下の表を見れば分かる通り、ラウンドごとの有効打数とジャッジの採点はほぼ合致している。なお、有効打の判定は明らかにナックルパートが的確に相手を捉えたパンチのみをカウントした。

那須川天心vsジェイソン・モロニー

モロニー研究の成果を発揮

今回の試合で天心のスピードとディフェンス技術が世界に通用することが証明された。モロニーは左ジャブから組み立てる正統派のボクサーファイターだが、天心はその左ジャブを見切っていた。

モロニーはジャブが当たらないから焦って前掛かりになり、サウスポーの天心が右フックを引っかけながら相手の左側にポジションチェンジするシーンがたびたびあった。モロニーの「空転」を印象付けるには十分だった。

さらにガードの高いモロニーのボディーに何度もクリーンヒット。上下の打ち分け、顔を打つとフェイントを入れてのボディーブローなど相手を研究してきた成果をうかがわせた。

前回アシロ戦と全く異なるパンチの内訳

奇しくも今回の有効打数134発は、10回判定勝ちでWBOアジアパシフィックバンタム級王座に就いた昨年10月14日のジェルウィン・アシロ(フィリピン)戦と全く同じ。総パンチ数459発も、アシロ戦の425発とほぼ変わらない。

しかし、パンチの内訳は全く違っており、アシロ戦はジャブが55.3%、ストレートが23.3%を占めたのに対し、今回はジャブが27.5%、ストレートは17.6%にすぎず、フックが42.9%と大幅に増えている。

アシロ戦は1.6%しかなかったアッパーも今回は12.0%と多用した。実際、7回には右アッパーでモロニーの顎をはね上げるシーンもあった。

>> 前回ジェルウィン・アシロ戦のデータ

アシロよりスピードも突進力もあるモロニーには、ストレート系のパンチより左右に動きながらフック、アッパーを使う方が有効という作戦が透けて見える。無理にノックアウトを狙わず、テクニックを見せつけての判定勝ちは陣営の狙い通りの勝利と言えるだろう。

モロニーは負けた気がしない?

モロニーが判定に異を唱えたのは、天心が足を止めて打ち合う場面が少なかったため「負けた気がしない」というのが本音ではないか。実際に天心が打ち合いに応じた6回はモロニーが打ち勝ち、ジャッジ3人ともモロニーの10-9と採点している。

天心が接近戦に課題を残しているのは言わずもがな。確かにプロである以上、正面から打ち合い、倒し倒されのダウンシーンが多い方がファンも喜ぶ。批判の声が挙がるのは、派手な言動で人気先行するわりにKO勝ちが少ないことへの感情的な部分も影響しているだろう。

しかし、華麗なテクニックで魅せるのもプロの仕事だ。世界にはモロニー以上にパワーがあるボクサーも数多くいる。敢えて打ち合いを挑んでリスクを冒す必要はない。ダメージを残すと今後のコンディション等への影響も懸念されるからだ。

モロニー戦でスピードとテクニックが世界レベルにあることは証明した。判定勝ちでも白星を並べていけば、いずれ世界のベルトを巻く日は来るだろう。

長谷川穂積や寺地拳四朗のように、世界王者になってからKO勝ちが急増した例もある。天心が足を止めて打ち合うのは、世界のベルト巻いてからでも決して遅くない。厳しいトレーニングを積んで課題を克服すれば、いつか人気に実力が追いつくはずだ。

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