前回のロブレス戦をデータ分析
プロボクシングのWBAバンタム級7位・那須川天心(25=帝拳)の次戦まで1カ月を切った。7月20日、東京・両国国技館で同級4位ジョナサン・ロドリゲス(25=アメリカ)とのノンタイトル10回戦。勝てば世界へまた一歩近付く試金石の一戦だ。
キックボクシングから転向して3戦3勝(1KO)。判定勝ちが2戦続いた後、初のKO勝ちとなった前回のルイス・ロブレス(メキシコ)戦も相手がギブアップしたためダウンを奪って倒し切ったわけではない。「神童」と呼ばれ、鳴り物入りでボクシングに転向した話題性から考えると、やや派手さに欠ける戦い方に物足りなさを覚えるファンも少なくないだろう。
しかし、まだプロ3戦のキャリアの浅いボクサーとして見ると、そのテクニックが相当高いことは間違いない。改めてロブレス戦をデータ分析すると下の通り、ほとんどパンチをもらっていないことがよく分かる。
有効打率は天心、井上尚弥ともに29%、相手は7%
試合を天心が支配していたことは見ての通りだが、有効打数をカウントすると圧倒的な差がある。3ラウンドで天心の48発に対して、ロブレスはわずか7発。天心はほとんどまともにパンチをもらっていないのだ。
しかも、天心は総パンチ数163発中48発のため、有効打の割合は29.4%なのに対し、ロブレスは100発中7発とたった7%。見事に「打たせずに打つ」ボクシングを体現している。
実はこの数字を見て驚いた。なんと井上尚弥のルイス・ネリ戦と酷似しているのだ。
参考:井上尚弥が人生最大のピンチを切り抜けた要因とは?データが示すネリとの違い
井上尚弥はネリを倒した6ラウンド途中までで278発中82発の有効打で、割合は29.5%。ネリは180発中13発で有効打の割合は7.2%だった。
もちろん、レベルが違うのは重々承知しているが、相手のパンチをもらわずに自分のパンチを的確に当てるというボクシングの極めて基本的なポイントにおいて、天心なりのレベルで井上と同等の試合を展開していると言える。
天心が試合をコントロールできるレベル、スタイルで、なおかつ世界ランキングに名を連ねている相手を呼んできた帝拳のマッチメイクもさすがとしか言いようがない。
世界を狙う選手は自分より強すぎず、弱すぎず、互角より少し下くらいの相手とキャリアを積むことで実力をつけ、戦績に傷をつけないままランキングを上げていける。天心を世界の頂点に立たせることは、多くの世界王者を輩出してきた帝拳プロモーションの本田明彦会長にとっても大きな仕事だろう。
右手一本でコントロールした天心、多彩なパンチでKOした井上尚弥
天心と井上が違うのはパンチの内訳だ。天心は右ジャブが61.3%を占めており、フックも25.8%あるが、ストレートはわずか6.1%と少ない。ほぼ右手一本で世界ランカーをコントロールしたと言っても過言ではない。
ネリ戦の井上はジャブが42.4%、ストレートが26.3%、フックが25.9%、アッパーが5.4%と多彩なパンチで「悪童」をノックアウトした。やはりKOするには、攻める姿勢はもちろん、パンチやコンビネーションの多彩さが必要だ。
天心のジャブが世界ランカーに通用することは証明された。ただ、ロブレス戦が3ラウンドで終わって繰り出す場面が少なかったこともあるとはいえ、相手を倒し切るだけの強い左ストレートを含め、多彩なコンビネーションを身につけることが今後の課題だろう。
振り返れば、世界バンタム級王座を10度防衛して3階級制覇した長谷川穂積も最初に世界王座を獲るまでは17勝(5KO)2敗とノックアウトが少なかった。しかし、世界のベルトを巻いてからは5連続KO防衛など別人のように倒しまくった。
現WBA・WBCライトフライ級王者・寺地拳四朗(B.M.B)も京口紘人(ワタナベ)やアンソニー・オラスクアガ(アメリカ)と激闘の末にKO勝ちするなど力強さを増している。倒すコツはキャリアを積んで身につくもので、世界を獲るまでのノックアウトの少なさはそれほど割引材料にならない。まずは「打たせずに打つ」技術の習得こそが重要だろう。
そういう意味では天心のポテンシャルには十分期待できる。ロドリゲス戦はさらに進化した姿を見せてくれるだろうか。ゴングを楽しみに待ちたい。
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