ディアスに5回TKO勝ちで無傷の23連勝
プロボクシングのIBF世界スーパーライト級10位・平岡アンディ(27=大橋)が12月26日、井上尚弥vsタパレスのアンダーカードとして行われたセバスチャン・ディアス(30=メキシコ)との8回戦で5回TKO勝ちした。
サウスポー同士の一戦。平岡は初回に左フック一発でダウンを奪うと、その後もほぼ一方的に攻め続け5回にレフェリーストップを呼び込んだ。これで9連続KO勝ちとなり、無敗レコードを23連勝(18KO)に伸ばした。
平岡が世界を狙うスーパーライト級はリミット63.5キロ(140ポンド)と日本では重い階級。軽量級と違って世界の壁はまだまだ厚く、これまで藤猛、浜田剛史、平仲明信の3人しか世界王者が誕生していない。最新の平仲でさえ1992年だから、もう30年以上世界のベルトを巻いた日本人はいないのだ。
その期待を一身に背負うのが平岡。父親のジャスティス・トレーナーはガーナ出身で、身長182センチ、リーチ188センチの恵まれた体格とパワー、スピードを受け継いだ。
幼い頃から父親にボクシングの手ほどきを受けたが、横浜高校時代には陸上部でも活躍し、国体に出場した実績も持つ。身体能力の高さは折り紙付きだ。
2013年に花形ジムからプロデビューし、2016年に横浜高校の先輩でもある大橋秀行会長率いる大橋ジムに移籍。2019年にはアメリカの大手プロモート会社トップランクと契約し、ラスベガスのリングでKO勝利を収めた。
2021年10月には日本・WBOアジアパシフィックスーパーライト級王座決定戦で佐々木尽に11回TKO勝ち。WBOアジアパシフィック王座は4度防衛し、2023年6月に世界挑戦に備えて返上した。
昨年は父の故郷でもあるガーナに飛び、かつてフェザー級とスーパーフェザー級の2階級を制したアズマー・ネルソンの指導を受けた。「プロフェッサー(教授)」と呼ばれた頭脳派ボクサーのレッスンで心身ともに成長しただろう。
今回の勝利で世界ランキングが上がる可能性もある。2024年はいよいよ世界挑戦の気運が高まるはず。技術的には粗削りな面を残すが、一打必倒のパワーは期待を抱かせるに十分だ。
井上尚弥も寺地拳四朗も「父子鷹」
スーパーライト級や父親がガーナ出身という点で注目されることの多い平岡だが、今回は「父子鷹」という点にも注目してみたい。
子供の頃に競技を始めたきっかけが父親の影響という例が多いのは、どんなスポーツでも共通するだろう。野球やサッカーなどのメジャースポーツは特にそうではないか。
ただ、ボクシングの場合は競技人口が少ない上、危険なスポーツでもあるため親が成長期の子供に指導するという例はそれほど多くない。親が未経験者なら教えることもできないし、たとえ経験者でもリスクのあるスポーツを幼少期から覚えさせることに抵抗を感じる親は少なくないだろう。
裏を返すと、幼少期から指導を受けることは、後々に大きなアドバンテージとなる可能性がある。今や世界的スターとなった井上尚弥と拓真兄弟が父・真吾トレーナーに幼少期から指導を受けてきたことは有名だ。
大晦日にKO防衛を果たした世界4階級王者の井岡一翔も父・一法氏は元プロボクサー、叔父・弘樹氏は元世界2階級王者というボクシング一家で育った。
WBA・WBCライトフライ級王者・寺地拳四朗の父・永氏は元日本ミドル級、東洋太平洋ライトヘビー級王者。亀田三兄弟もパフォーマンスに賛否両論あったとはいえ、父・史郎氏の熱血指導を受けて3人とも世界のベルトを巻いた。
複数階級を制覇したり、王座を統一したり、輝かしい実績を残したボクサーほど幼少期から父親の指導を受けていることは偶然とは思えない。
世界の壁が厚いスーパーライト級
先述の通り、スーパーライト級の世界の壁は厚い。現在、WBAは空位だが、WBCはライト級で4団体統一したデヴィン・ヘイニー(25=アメリカ)、IBFは20勝(20KO)1敗を誇るスブリエル・マティアス(31=プエルトリコ)、WBOは中谷正義やワシル・ロマチェンコにも勝っているテオフィモ・ロペス(26=アメリカ)と猛者揃いだ。
平岡にいつ世界挑戦のチャンスが巡ってくるか分からないが、ディアス戦の内容ではややアピール不足だった面も否めない。約1年ぶりのリングでレフェリーストップが早かったこともあるとはいえ、ダウンシーンは初回の一度だけ、クリーンヒットを浴びてディフェンス面の不安を露呈するなど修正すべき点もあった。
ただ、それでも破格のパンチ力は何にも代えがたい魅力。10歳の時にテレビのバラエティ番組で「ボクシング少年」として取り上げられ、父親に怒られて落ち込んでいたアンディくんは、逞しい世界ランカーに成長した。たった一発で世界を驚かせる日がいずれやってくるはずだ。
ⒸLemino/SECOND CAREER
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