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井上尚弥に大番狂わせはないのか?無敗の日本人世界王者が負けた日

2023 12/23 06:00SPAIA編集部
井上尚弥とマーロン・タパレス,ⒸSECOND CAREER
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ⒸSECOND CAREER

26日にタパレスと4団体統一戦

プロボクシングのWBC・WBO世界スーパーバンタム級王者・井上尚弥(30=大橋)対WBA・IBF同級王者マーロン・タパレス(31=フィリピン)の4団体統一戦が26日に東京・有明アリーナで行われる。

戦前の予想は井上の圧倒的有利。タパレスはWBOバンタム級に続いて、今年4月にムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)に判定勝ちして2階級制覇した2団体統一王者だが、前戦で井上が倒したスティーブン・フルトン(アメリカ)に比べると体のサイズも小さく、身長、リーチとも井上が上回っている。

2019年にIBFスーパーバンタム級暫定王座決定戦で岩佐亮佑に11回TKO負けするなど、世界的なビッグネームを破った実績も少ない。フルトンをノックアウトした井上にとって、タパレスは難しい相手ではないというのが大方の見方だ。

しかし、井上自身が「楽勝ムードが一番怖い」と語っており、気を引き締めている。力量差があったとしても一発で形勢逆転するのがボクシング。大番狂わせが起こる可能性がゼロではないことは歴史が証明している。

具志堅用高、井岡弘樹、辰吉丈一郎は無敗王者から陥落

井上は25戦全勝(22KO)。過去にも無敗のまま世界王座に上り詰めたものの、防衛戦で初黒星を喫した例は少なくない。

具志堅用高は当時最速記録だったプロ9戦目でWBAライトフライ級王座を奪取。最軽量級(当時)とは思えないエネルギッシュなファイトで6連続KO防衛を記録するなど、現在も日本最多記録の13度防衛を果たした。

しかし、13度目の防衛戦で判定勝ちしたペドロ・フローレス(メキシコ)との再戦となった14度目の防衛戦で12回KO負け。プロ24戦目で初黒星を喫し、そのまま引退した。

井岡弘樹は1987年、具志堅の記録に並ぶ9戦目でWBCミニマム級(当時ストロー級)王座を獲得。18歳9カ月10日での世界奪取は、ファイティング原田の記録を更新する国内最年少記録でもあった。

初防衛戦直後に亡くなった名トレーナー、エディ・タウンゼントの「追悼試合」として1988年6月に行われた2度目の防衛戦の相手はナパ・キャットワンチャイ(タイ)。当時世界的には無名で井岡の勝利が予想されていたが、12回終了ゴングが約30秒早く鳴った上、辛くもドローに終わった。同年11月の再戦では12回判定負け。初黒星を喫した井岡は王座から陥落した。

具志堅、井岡を上回る8戦目でWBCバンタム級王者となったのが辰吉丈一郎だ。百戦錬磨のグレグ・リチャードソン(アメリカ)を倒して一躍ヒーローとなり、生い立ちや派手な言動も手伝って「浪速のジョー」の人気は急騰した。

しかし、その後に発覚した網膜裂孔によって1年のブランクを作り、1992年9月のビクトル・ラバナレス(メキシコ)戦でまさかの9回TKO負け。9戦目でプロ初黒星を喫した辰吉はその後も波瀾万丈のボクサー人生を送った。

内山高志はV12戦、山中慎介はV13戦で初黒星

内山高志は2010年1月、14戦目でWBAスーパーフェザー級王座を獲得。破格の強打でKOの山を築いた。しかし、具志堅の防衛記録も見えてきた2016年4月の12度目の防衛戦でジェスレル・コラレス(パナマ)に2回TKO負け。26戦目で初黒星を喫してベルトを失い、同年大晦日の再戦も判定負けで引退した。

井岡弘樹の甥、井岡一翔は無敗のまま2階級制覇を達成した。3階級制覇を狙って2014年5月にIBFフライ級王座に挑んだが、アムナット・ルエンロン(タイ)に12回判定負け。15戦目での初黒星だった。井岡一翔はその後、4階級制覇を果たしている。

山中慎介は2011年11月に17戦目でWBCバンタム級王座を獲得。「神の左」と恐れられた強打でKOを量産し、日本歴代2位となる12度の防衛を果たした。しかし、具志堅の記録に並ぶかと思われた2017年8月の13度目の防衛戦で、ルイス・ネリに4回TKO負け。30戦目の初黒星でベルトを失い、再戦でも敗れて引退した。

ネリは現在WBCスーパーバンタム級1位にランクされており、井上尚弥がタパレスに勝った場合、次の対戦相手候補として名前が挙がっている。

田中恒成は無敗のまま世界最速タイの12戦目で3階級制覇を達成。4階級制覇を狙って2020年大晦日に当時WBOスーパーフライ級王者だった井岡一翔に挑んだが8回TKO負けし、16戦目で初黒星がついた。

寺地拳四朗は速い左ジャブと華麗なフットワークでWBCライトフライ級王座を8度防衛。しかし、2021年9月、伏兵・矢吹正道に10回TKO負けして19戦目で初黒星を喫した。翌年のリターンマッチで矢吹にリベンジし、現在はWBA・WBCライトフライ級統一王者となっている。

主な例を挙げただけでも、これだけの無敗王者が敗れている。無敗の選手ほど負けるシーンは想像しにくいが、ほんの少しの油断やコンディションの調整ミスが番狂わせを呼ぶのだろう。井上には、そんな一抹の不安を払拭する豪快なノックアウトを期待したい。

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