12月26日に4団体統一戦
プロボクシングのWBC・WBO世界スーパーバンタム級王者・井上尚弥(30=大橋)が、WBA・IBF同級王者マーロン・タパレス(31=フィリピン)と12月26日に東京・有明アリーナで4団体統一戦を行う。勝てば現4団体統一世界ウェルター級王者テレンス・クロフォード(36=アメリカ)に次いで史上2人目の2階級で4団体統一となる。
昨年12月にバンタム級で4団体統一を果たし、今年7月にはスティーブン・フルトン(29=アメリカ)に8回TKO勝ちして4階級制覇。スーパーバンタム級転向2戦目は歴史的快挙をかけた大一番だ。
しかし、戦前の盛り上がりはノニト・ドネアとの2戦や、バンタム級の4団体統一をかけたポール・バトラー戦、前回のフルトン戦などに比べると、もうひとつと言わざるを得ない。タパレスと実力を比較すると「負けるかも知れない」という危機感は小さく、井上の圧勝ムードすら漂う。
もちろん、「常に相手を過大評価して臨む」という井上陣営に油断はないだろう。しかし、周囲の見る目は井上が勝つか負けるかではなく、何ラウンドで倒すかに焦点が移っている。
これまで強い相手を選んで戦ってきた井上は、タパレスが王者でなければ対戦相手としてリングに上がることはなかったのではないか。そういう意味では、タパレスに勝っても2本のベルトが手に入る以外のメリットは見当たらない。
「二刀流」での活躍が当たり前になってきた大谷翔平
しかし、ちょっと待ってほしい。ほんのわずかな心の隙や調整ミスが命取りになることはボクシングの歴史が証明している。数々の大番狂わせが起きてきた裏には、それだけの理由があるのだ。
その中で結果を残し続けることがどれほど大変か忘れてはならない。25戦全勝(22KO)のパーフェクトレコードには、並々ならぬハードトレーニングだけでなく、相手の長所を封じる緻密な戦略と常に完璧な状態でリングに上がり続けてきた心身の充実、飽くなき向上心がある。そのどれかひとつが欠けても、世界トップレベルで勝ち続けることなどできない。
最近の井上は大谷翔平に似てきてなと感じることがある。メジャーリーグで常識では考えられなかった「二刀流」として結果を残し続けるうち、それが当たり前かのように捉えられ、シングルヒットでは誰も驚かなくなった。
どんな競技でもそうだが、初めて達成した時ほど世間に与える衝撃は大きい。昨年、井上が苦難の末に11回KO勝利で4団体統一を果たしたバトラーとも実力差があったが、「日本初」という響きにファンは酔いしれ、その偉業を称えた。
だが、一度見た頂上の景色を再度見ても、初めての時の感動はない。タパレスに勝って2階級で4団体統一を果たしても1年前のような感動を求めることはできないだろう。
スーパーバンタム級でライバルは出現するか
ないものねだりかも知れないが、井上の地位を脅かすようなライバルの出現が待たれる。井上はタパレスに勝って4団体統一しても当面はスーパーバンタム級に留まって防衛を重ねる意向を示しているが、日本で対戦アピールを狙ったジョンリエル・カシメロ(34=フィリピン)は10月12日に小國以載と負傷ドロー。対戦相手候補として値打ちを下げたことは否めない。
ビッグマネーが期待できる井上との対戦を希望するボクサーは世界中におり、日本でも知名度の高いルイス・ネリ(28=メキシコ)らが手ぐすねを引いている。しかし、試合前からヒリヒリするような強敵がスーパーバンタム級で現れるだろうか。
繰り返しになるが、井上が歩むボクサーとしてのキャリアは唯一無二と言っても過言ではない。今、我々が見ているボクサーは間違いなく後世に語り継がれるスーパースターだ。
破壊力満点のパンチ、類まれなスピード、華麗なフットワーク。一級品のパワーとテクニックをリアルタイムで見られることは幸運以外の何物でもない。そう考えると、一番見てみたいカードは井上尚弥vs井上尚弥かも知れない。
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