メキシコバンタム級王者に完勝もKOできず
キックボクシングからボクシングに転向した東洋太平洋スーパーバンタム級8位・那須川天心(25=帝拳)が18日、東京・有明アリーナでボクシング2戦目に臨み、メキシコバンタム級王者ルイス・グスマン(27)に8回判定勝ちした。
立ち上がり、力強い右ジャブをお見舞いすると、持ち前のスピードあふれる左右のパンチと滑らかなフットワークでペースをつかむ。開始のゴングから1分が経とうとした頃、前に出る相手に下がりながら左カウンターを合わせてダウン。6回判定勝ちだったデビュー戦と違い、この日は早い決着かと思わせた。
2回以降もクリーンヒットは許さず、天心がほぼ一方的に打つ展開だったが倒すには至らない。7回にタイミング良く右フックを合わせて2度目のダウン。最終8回には猛攻を仕掛け、最後はグスマンが背中から倒れたがスリップダウンと裁定され、終了のゴングが鳴った。
ジャッジペーパーは3者とも80-70のフルマーク。ノックアウトできず2戦連続判定勝利となったが、スピードとテクニックを改めて証明した。
試合後のインタビューで「ダウンを取れて進化した姿を見せられたと思うけど、最後がうまくいかないというか、人生うまくいかないな」と倒し切れなかったことを悔やんだ。今回は試合前に「しっかりと殴りにいく」とKOを意識した発言をしていただけに100%納得のいく勝利ではなかったのだろう。
簡単には抜けないキックボクシング時代の「習性」
ボクシングのプロテストに大勢の報道陣が詰めかけるなど、常に話題が先行してきたが、天心の派手な言動やパフォーマンスに眉をひそめるファンは少なくない。若者の間でカリスマ的人気を誇り、偶像だけが巨大化してしまったために、2戦連続の判定勝ちで「期待外れ」といった空気が広がる懸念も否定できない。
しかし、天心の商品価値が落ちたとは言えないだろう。相手の前進を止める左ボディーブローや、出てくる相手に合わせる右フックなどデビュー戦より確かな「進化」を示した。
キックボクシングとボクシングは似て非なる競技だ。ラウンド数が違うためスタミナ配分も異なる。深追いしない、手数が多くない、足を止めて打ち合わないなど、キックボクシング時代からの「習性」が残っていると考えれば、わずか2戦目のボクサーとしては相当高いレベルにある。
これからのトレーニングでスタミナをつけ、勝負どころでの連打やコンビネーションを増やし、ロープに詰めてパンチをまとめ、レフェリーストップを呼び込むテクニックなどを覚えれば、自然とKOは増えるはず。旺盛な向上心を持ち、努力家の天心なら一戦ごとの成長が期待できる。
理想的なキャリアアップが期待できる帝拳ジム
今回の試合でファイタータイプと噛み合うことも分かった。派手な言動とは相反するが、天心の基本的なスタイルは足を使うスマートなボクサーだ。
常に同じところに留まらず、サイドステップやダッキングでまともにパンチをもらわず、自分のパンチは的確に当てる。天心のトレーナーを務める元世界2階級王者・粟生隆寛のようなスピードとキレで勝負する世界王者が理想像だろう。
所属する帝拳ジムの本田明彦会長は世界的なネットワークを持つプロモーター。海外武者修行も含め、様々な相手を用意して経験を積ませるはずだ。天心の人気に実力が追いつく日がいずれは来る。
テレビの地上波中継がなくなり、世界王者になっても知名度は低いまま、マイナースポーツ化が進むボクシング界。天心がその人気を復活させるだけのスター性を持つことに疑いの余地はない。まだまだ若いスター候補を色眼鏡で見るのではなく、長い目で、かつ温かい目で見てあげる度量が必要ではないだろうか。
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