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井上尚弥をより輝かせた前王者スティーブン・フルトンの強さとずる賢さ

スティーブン・フルトン,ⒸSECOND CAREER
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ⒸSECOND CAREER

負けて強し…世界に実力を知らしめた22戦目の初黒星

井上尚弥(30=大橋)が8回TKO勝ちで4階級制覇を達成した25日のWBC・WBOスーパーバンタム級タイトルマッチ。7ラウンドまでのポイントは69-64が2人に、68-65が1人と井上が大きくリードしていたが、ポイントほど一方的な内容ではなかった。お互いにクリーンヒットが少なく、ハラハラさせる熱い試合になったのは前王者スティーブン・フルトン(29=アメリカ)の頑張りがあったからに他ならない。

フルトンの戦い方は予想された通りだった。スタンスが広いため、身長が井上より4センチ高いわりに頭の位置は低い。それでも8センチ長いリーチとバックステップやサイドステップを駆使して井上の強打をかわした。

井上もやりにくさは感じていただろう。それこそ、フルトンがここまで無敗で来ていた真骨頂。相手を調子に乗せず、ズルズルと自分のペースに引きずり込んで判定をものにするのだ。

前半4ラウンドはジャッジ3人とも井上にポイントをつけるなどフルトンもモンスターの強打に戸惑いながら戦っていたが、中盤からはパンチを当てるシーンも増え、7ラウンドはジャッジ3人ともフルトンの10-9。そこからさらに自分のペースに持ち込めば、逆転判定勝ち、もしくはドロー防衛という可能性もわずかにあった。

並の相手ならそんなプランを遂行できたかも知れないが、井上には通用せず、8回にプロ初のダウンを喫してTKO負けしたのはご存じの通り。これまではKO率の低さから世界的な評価はそこまで高くなかったが、解説の村田諒太が「フルトン選手がここまで強いと思ってなかった。うまいな、強いなと思った」と認めた通り、歴戦の王者として、ずる賢く負けにくいボクサーであることを存分に知らしめた22戦目の初黒星だった。

バンテージ騒動からフェイスオフまで“助演男優賞”

22日の記者会見ではフルトン陣営のトレーナーが井上のバンテージの巻き方にクレーム。結局、言い分が通って井上はいつもとは違う巻き方を強いられた。

さらに前日計量では火花を散らすフェイスオフ。最近は計量後のお決まりのパフォーマンスになっているが、今回ばかりは司会者から「両選手、正面を向いてください」と促されても井上から視線を逸らさず、井上も睨み返すガチンコの睨み合いだった。

それだけ陣営は井上に敵対心を剥き出しにし、勝利を追い求めた。期せずしてヒールを演じることになったが、試合での戦いぶりも含めてやはり最強、最高の王者だったことは間違いない。主役の井上が輝いたのも“助演男優賞”のフルトンがいたからだ。

フルトンは井上戦が決まる前、スーパーバンタム級王座を返上してWBCフェザー級王座決定戦に出場すると噂されたこともあり、今後はフェザー級に上げる可能性もある。もし、フェザー級でタイトルを獲れば、いずれ5階級制覇を狙う井上と再戦というシナリオが描かれるかも知れない。

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