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井上尚弥はWBAとIBFでなぜノーランクなのか?ボクシング世界ランキングの謎

2023 7/17 06:00SPAIA編集部
井上尚弥,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

WBAとIBFの世界ランキングに井上尚弥の名前なし

プロボクシングのWBC・WBOスーパーバンタム級1位・井上尚弥(30=大橋)が7月25日に東京・有明アリーナで同級王者スティーブン・フルトン(29=アメリカ)に挑戦する。

来日したフルトンが14日の公開練習をわずか2分45秒で切り上げると、翌15日に井上はたった30秒でシャドーボクシングを終了。すでにリング外で両陣営の神経戦は始まっている。

ところで井上はWBCとWBOで1位にランクされる、文字通りの最強挑戦者としてリングに上がるが、WBAとIBFでは何位にランクされているかご存じだろうか。

なんと、WBA、IBF両団体の世界ランキングに井上の名前はないのだ。バンタム級で4団体を統一し、世界で最も権威があるとされる米ボクシング誌「ザ・リング」のパウンド・フォー・パウンドでも全階級を通じて2位にランクされる世界的実力者がノーランクとはにわかに理解し難い。

本来、世界ランキングとは最上位に王者がいて、強い選手が1位から順番にランキングされるはず。しかし、実際はスーパーバンタム級転向を表明して間もなくフルトン挑戦が決まった井上を、WBAとIBFはランキングに入れていない。

タパレスにフルトン対井上の勝者との対戦を承認したWBA

ボクシングの主要4団体はそれぞれが独自に王者を認定し、世界ランキングを毎月発表している。しかし、そこには利益を優先する商業主義がまかり通っており、必ずしも強い選手が順番に並ぶわけではないのだ。

各団体は世界タイトルマッチの承認料を収入源のひとつとしているため、他団体の王者への挑戦が決まっている井上をわざわざランキングに入れる必要はないとの判断が働いたのだろう。しかし、ファンからすれば、なぜ井上ほどの選手がランキングに入っていないのか釈然としない思いも残る。

今や世界的なスター選手で「カネのなる木」となった井上は引く手あまた。各団体はぜひとも自団体のベルトを巻いてほしいと願ったとしても不思議ではない。

WBAはすでにWBA・IBFスーパーバンタム級王者マーロン・タパレス(31=フィリピン)に対し、次戦でフルトン対井上尚弥の勝者と対戦することを承認。井上がフルトンに勝てば、WBAのベルトを巻くためのレールを敷いている。

WBOは「スーパー王者」が転級すれば指名挑戦権

ただ、WBA同級1位の亀田和毅(32=TMK)やWBC2位のルイス・ネリ(28=メキシコ)ら世界挑戦の機会を待ち続けている選手もおり、IBF1位には11戦全勝(6KO)のサム・グッドマン(24=オーストラリア)が控えている。

各団体は9カ月から1年程度のうちに最上位ランカーの挑戦を受けるよう王者に義務付ける指名試合を規定しており、井上がフルトンに勝ってもすんなりタパレス戦が決まるとは限らない。

余談ではあるが、WBOは優れた王者として認定した「スーパー王者」が転級した場合、移った階級で指名挑戦者となる権利を与えている。今回の井上もその恩恵にあずかった形で、バンタム級時代に「スーパー王者」として認定されたため、転級初戦でいきなりフルトン戦実現に向け、障壁が少なかった側面がある。

いわば有力選手の「囲い込み」を可能とする制度で、田中恒成(28=畑中)は全てWBOで3階級制覇を果たしている。スーパー王者や暫定王者などベルトの乱造は批判されることも多いが、各団体ともあの手この手で利益を追求しているのが現実だ。

そういった分かりにくさや腑に落ちない部分も、圧倒的な強さで有無を言わせないのが井上の凄さ。スーパーバンタム級でも4団体統一を果たせばボクシング界全体が潤い、全て丸く収まると考えると、正真正銘のスーパーヒーローと言えるだろう。

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