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もし井上尚弥がフルトンに負けるとしたら…最悪のシナリオは?

2023 3/1 06:00SPAIA編集部
井上尚弥とスティーブン・フルトン,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

「仮想フルトン」とスパーリング

プロボクシングの前世界バンタム級4団体統一王者で現WBC・WBOスーパーバンタム級1位・井上尚弥(29=大橋)が来る大一番に向け、トレーニングを積んでいる。

挑戦に向けて交渉中のWBC・WBO統一王者スティーブン・フルトン(28=アメリカ)対策として呼び寄せたジャフェスリー・ラミド(23=アメリカ)と3日連続スパーリング。ラミドは元3階級王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)の練習パートナーを務めてきた10勝(4KO)無敗のホープで、フルトンと身長やリーチが近いため、井上にとってイメージをつかむには格好の相手となったようだ。

井上がそこまでフルトン対策に熱心なのは、未知の世界であるスーパーバンタム級で2団体を統一した王者というだけではない。身長165センチ、リーチ171センチの井上に対し、フルトンは身長169センチ、リーチ179センチと一回り大きいからだ。

両拳だけで戦うボクシングでは、体のサイズが大きいほど有利なのは言うまでもない。仮に同時にパンチを打てば、リーチの長い方が先に当たるのは自明の理。だからこそ階級アップにはリスクが伴うのだ。

わざわざ海外からフルトンと同タイプのスパーリングパートナーを呼んだのも、井上の警戒心の裏返しに他ならない。試合前はいつも「相手を過大評価する」と話す井上も、今回は最大級の敬意を払っているのかも知れない。

安全を確保しながら自分のペースに引きずり込む狡猾なフルトン

井上はここまで24戦全勝(21KO)のパーフェクトレコードを誇るが、フルトンも21戦全勝(8KO)と無敗街道を突き進んでいる。ノックアウトが少ないとはいえ、長いリーチを活かしてポイントを奪うことには長けたボクサーだ。

アマチュア時代は五輪出場経験こそないものの90戦(75勝15敗)のキャリアを誇り、長いボクシングキャリアで培った技術は確かなものがある。パワーとスピードで勝る井上の優位は動かないが、もし負けることがあるとすればどんな展開だろうか。

フルトンはスタンスが広く、重心が低い。距離を取って戦うものの、常にフットワークを使うアウトボクサーとは少し違い、いわゆる「ベタ足」で戦うシーンも多い。

後ろ足(右足)に重心を置いて左ジャブを多用し、自らの安全を確保しながらも、時にはいきなり右を振って飛び込んでくることもある。リーチが長い割に接近戦も厭わない、相手にとってはやりにくいボクサーだ。

2021年11月、WBO王者だったフルトンと統一戦に臨んだ当時のWBA・WBC王者ブランドン・フィゲロア(26=メキシコ)は、強引に前に出て距離を潰しにかかったが、狡猾なフルトンに最後までクリーンヒットできないままズルズルとラウンドを重ね、12回終了のゴングを聞いた(0-2判定負け)。

井上にとって最悪のシナリオは「勝ち方」にこだわってKOを狙うあまり、フィゲロアのようにフルトンペースに引きずり込まれる展開だろう。

必要以上に前に出ると、攻めていてもスタミナをロスする。加えて、体の柔らかいフルトンはまともにパンチをもらわないため精神的にも焦りが募る。心身ともに消耗しながら、あれよあれよと12回まで持ち込まれるのは最悪の展開だ。

つまり井上が負けるとすれば、出血などのアクシデントによるTKOを除いて判定以外にないと見る。

カギは左ジャブとボディブロー

とはいっても、スピードとパワーで勝る井上が負けるシーンは想像しにくい。まずは左ジャブの差し合いがカギを握る。リーチではフルトンが勝るが、スピード勝負なら井上が上。序盤でいかに左ジャブを当ててペースをつかむかが重要だ。

もうひとつは接近戦でのボディブロー。井上のパワーはフルトンも体験したことのない強烈さだろう。あのノニト・ドネアをも悶絶させた左ボディを受ければフルトンの足も止まるはずだ。

バンタム級で4団体を統一した2022年12月のポール・バトラー戦は「長引く想定」と試合前に話していた通り、11回まで長引いた。それはバトラーが打たれても打ち返すことなく専守防衛に徹したからだが、フルトン戦も違った意味で長引いても不思議ではない。

安全な距離を保とうとするフルトンを倒すには、ボディブローでスタミナを奪いながら、足が止まった中盤から終盤に井上のKO勝ちという展開が最もイメージしやすい。それでもドネアをたった2回で倒したように予想をいい意味で裏切ってきたモンスターなら、アッと驚くような、鳥肌の立つようなKO劇を演じる可能性も十分にある。

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