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井上尚弥と同じ“飛び石”で4階級制覇したロベルト・デュランのボクサー人生

2023 5/28 06:00SPAIA編集部
現役時代のロベルト・デュラン,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

“飛び石”で4階級制覇はわずか5人

プロボクシングのWBC・WBOスーパーバンタム級1位・井上尚弥(30=大橋)の試合まで2カ月を切った。7月25日に東京・有明アリーナで同級王者スティーブン・フルトン(28=アメリカ)に挑戦。勝てば日本では井岡一翔(34=志成)に続いて史上2人目の4階級制覇となる。

井上がもしフライ級で戦っていたら…。勝負事に「タラレバ」は禁物だが、ライトフライ級(48.97キロ)から1階級飛ばしてスーパーフライ級(52.16キロ)、さらにバンタム級(53.52キロ)と3階級を制覇した井上が、もしフライ級(50.80キロ)で王座獲得していれば、すでに4階級制覇を達成していても不思議ではない。

減量が厳しかったため2階級上げて戦わざるを得なかったとはいえ、記録のことを考えるとフライ級王座を獲っていないことを惜しむファンや関係者は少なくないだろう。

これまで世界で4階級制覇を達成したボクサーは22人。そのうち階級を飛ばす“飛び石”で達成したのは、6階級制覇のマニー・パッキャオ(フィリピン)とロベルト・デュラン(パナマ)、ロイ・ジョーンズ・ジュニア(アメリカ)、エリック・モラレス(メキシコ)、ロバート・ゲレーロ(アメリカ)の5人しかいない。

その中から史上3人目の4階級制覇を果たしたロベルト・デュランのボクサー人生を振り返ってみよう。

ガッツ石松らを倒してライト級王座12度防衛

パナマ出身のデュランは16歳でプロデビューし、元世界スーパーフェザー級王者・小林弘に7回KO勝ちして引導を渡すなどアグレッシブなボクシングでライト級を席巻。1972年6月にケン・ブキャナン(イギリス)を13回TKOで破ってWBA世界ライト級王座を奪った時、まだ21歳だった。

当時は世界王者になっても防衛戦の間にノンタイトル戦を挟む時代。デュランは1972年11月にノンタイトル戦でエステバン・デ・ヘスス(プエルトリコ)にまさかの判定負けを喫し、32戦目で初黒星を喫したが、1974年3月の4度目の防衛戦で11回KO勝ちしてリベンジ。1978年1月にはWBC王者となっていたデ・ヘススと3度目のリングに上がり、12回TKO勝ちでライト級王座を統一した。

計12度防衛した中には、ガッツ石松に10回TKO勝ちした3度目の防衛戦や高山将孝を1回で倒した5度目の防衛戦など、日本のボクサーもデュランの強打の餌食となっている。

デ・ヘススとのラバーマッチを制してライト級最強を証明したデュランは、守り続けてきたベルトを返上。2階級制覇に挑むことになる。

50歳まで119戦した「石の拳」

ライト級のベルト返上から2年半が経過した1980年6月。デュランは2階級上のWBCウェルター級王者シュガー・レイ・レナード(アメリカ)に挑戦した。

スピードに勝るレナードが有利と見られたが、試合は大方の予想を覆してデュランの15回判定勝ち。見事に2階級制覇を果たした。この時の戦績が72勝(56KO)1敗。デュランのボクサー人生のピークと言っていいかも知れない。

しかし、5か月後の再戦ではレナードの徹底したヒットアンドアウェイにイライラを募らせ、8回に突然、戦意を喪失。ダウンシーンのないままTKO負けとなった。

その後はスーパーウェルター級に上げ、ウィルフレド・ベニテス(プエルトリコ)には敗れたもののデビー・ムーア(アメリカ)に8回TKO勝ちして3階級制覇。しかし、さらに1階級上の統一ミドル級王者マービン・ハグラー(アメリカ)に判定負けすると、トーマス・ハーンズには顎を打ち抜かれて前のめりに倒れる衝撃の2回TKO負けで2連敗を喫した。

その頃から負けが込み始めたが、1989年2月にはWBCミドル級王者アイラン・バークレー(アメリカ)を下して4階級制覇。すでに37歳となっており、執念のタイトル奪取だった。

同年12月にはWBCスーパーミドル級王者となっていたシュガー・レイ・レナードに挑んだが、12回判定負け。ラストファイトは2001年7月、ヘクター・カマチョ(プエルトリコ)に敗れ、ついにグローブを吊るした。

なんと、この時50歳。実に119戦して103勝(70KO)16敗の戦績を残した。レナード、ハーンズ、ハグラーとともに「中量級スターウォーズ」と呼ばれる4強を形成したが、最も軽いライト級から上がっていったデュランはレナードに1勝したのが唯一の白星。ライト級時代の輝きに比べると、ウェルター級以上では引き立て役に回った感が否めないのは無念だったろう。それでも「石の拳」と呼ばれた強打とその輝かしいキャリアは今も色褪せていない。

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