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ボクシング世界王者からプロモーターに転身した伊藤雅雪氏インタビュー①感銘受けた那須川天心デビュー戦

伊藤雅雪氏,ⒸNAOKI FUKUDA
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ⒸNAOKI FUKUDA

運命に導かれるようにプロモーターデビュー

プロボクシングの元WBO世界スーパーフェザー級王者で、引退後に「トレジャーボクシングプロモーション」を設立してプロモーターとして活躍している伊藤雅雪氏(32)がSPAIAの単独インタビューに応じた。

世界王者が引退後にジムを設立して所属選手のプロモートをする例は多いが、ジムは持たずに国内外あらゆる選手のマッチメークに奔走する専業プロモーターに転身するのは異例。海外ではオスカー・デラホーヤが引退後に「ゴールデンボーイ・プロモーションズ」を立ち上げて活躍しているが、2022年4月に吉野修一郎に敗れたのを最後に引退した伊藤氏がプロモーターに転身したのは、どんないきさつだったのだろうか。

「元々はプロモーターをやろうとは考えてなくて、ジムをやりたいと思っていたのですが、ボクシングだけではなかなか食べていけないので、まず他の事業を始めました。ただ、僕の性格的に、毎日ジムに行ってトレーナーをやってというタイプじゃないんで、人を立ててやろうかなと考えながら場所も探してたんです」

引退後、現役時代からのつながりで美容クリニックの代表に就任し、ペットのトリミングサロン経営や父親の会社も受け継いで3つの事業を営む実業家となった。そんな時、韓国に行く機会があり、カジノ関係者から格闘技イベントをやりたいという話を聞いたことがプロモーターへの道を開く。

「K-1やRIZINなども候補にあって時間はかかりましたが、ボクシングの提案をして仕事を始めることになりました。ボクシングに携わりたい気持ちはずっとあったんで」

異例の転身の背景にはこんな出来事があった。まだ現役だった2021年8月、同じ横浜光ジムに所属するウェルター級・坂井祥紀のメキシコ遠征に帯同。英語を話せる伊藤氏は坂井の練習を手伝うだけでなく、現地でのやり取りなど雑多な裏方仕事を全てこなし、坂井は見事にKO勝ちを収めた。

「みんなで打ち上げをやって、選手じゃなくてもこういう感動を味わえるんだと思いました」と振り返る。

さらにデビュー当時は伴流ジムという小さなジムに所属していたこともあって、よりハイレベルな環境を求め単身渡米してトレーニング。それを繰り返すうちに英語を覚え、外国人とのコミュニケーションも得意になった。そうした経験とタイミングが合致し、伊藤氏は引退後、運命に導かれるようにプロモーターとしてデビューした。

2022年12月3日、難しい交渉を経てようやく実現したのが、韓国・仁川のパラダイスシティで行われたジョンリエル・カシメロ(フィリピン)対赤穂亮をメインイベントとする興行だ。バンタム級時代に井上尚弥を盛んに挑発して話題になったカシメロが2回KO勝ちで1年4カ月ぶりの再起を果たした。

横浜光・石井会長や帝拳・本田会長から貪欲に吸収

プロモーターとしてのやりがいはどこにあるのだろうか。

「ひとつの作品を作り上げていく感じがします。準備から長い時間をかけて、お金の面で不安も大きいですが、現役時代と同じで、しっかりやってればいい結果が出るし、適当にやってれば適当になっちゃう。その楽しさは感じますね」

世界を股にかけたイベントを成功させる苦労は並大抵ではない。世界ランキングなどを見ながら魅力的なカードを組み、開催場所との交渉や演出、予算管理など仕事は多岐に渡る。

「タイ、フィリピン、韓国とかはできる限り現地へ行って直接話しますが、遠い国はメールやZoomで通訳を入れて連絡を取ります」

伊藤雅雪氏

ⒸNAOKI FUKUDA


現役時代に所属した横浜光ジムの石井一太郎会長や帝拳プロモーションの本田明彦会長からはプロモーターとして様々なことを学ぶという。

「一緒にやって勉強になることがすごく多いです。実績のある方々に囲まれながらやらせてもらってるんで、今のうちにしっかり勉強しないといけないと思いますね。自分は32歳だし、あと5年、10年したらと自分の未来が楽しみになります」

テレビを見ていても「予算どれくらいかな」

帝拳の本田会長と言えば、今や日本が世界に誇る辣腕プロモーター。2022年4月にはコロナ禍で延期などのトラブルに見舞われながらゲンナジー・ゴロフキンを日本に呼び、さいたまスーパーアリーナで村田諒太とのビッグマッチを実現。今年4月には那須川天心のデビュー戦も大盛況だった。

「那須川天心選手のデビュー戦を観させていただきましたが、やっぱりすごいなと思いました。イベントの設営、映像、カメラをどう撮るか、ライトアップなど予算を考えてやるんですけど、プロフェッショナルだなと思います。本田会長は海外とのコネクションもあるし、ずっと続けてきたからあの立場があると思うので、僕もああいう風になりたいなと思いますね」

伊藤氏は4月15日に韓国・仁川のパラダイスシティで自身2度目の興行を打った。メインでは、東洋太平洋ミドル級王者・竹迫司登がWBOインターナショナル王者メイリン・ヌルスルタン(カザフスタン)に8回TKO負けした。

「僕らは現地のプロモーションとタッグを組んでやるんですが、こっちの要望を伝えるのも言葉の壁があるから難しいです。何日も前に入って細かくチェックしても、やろうとしてたことできなかったり、映像と音がかみ合わなかったり、トラブルは常にあります」

最近はテレビ番組を見ていても演出などに目が行くという。

「テレビを見ながら予算はどれくらいかなとか考えるようになりました。ボクシングは興行ごとに大きな金額が動きますからね」


現在は幼稚園から小学校4年生まで3児の父でもある。現役時代に比べると、日本にとどまらず世界を飛び回る今は家を空けることも格段に増えた。

「子供のために時間を作らないといけないと思うけど、接する時間は激減してますね…」

一瞬だけ父親の顔になった伊藤氏だが、まだプロモーターとしては走り出したばかり。家族のため、ボクシング界のために、これからさらなるビッグイベントを仕掛けていく。(つづく)

《プロフィール》
伊藤 雅雪(いとう・まさゆき)1991年1月19日、東京都江東区出身。駒大高時代はバスケットボール部に所属。駒大在学中にプロボクサーとしてデビューし、2018年7月にWBO世界スーパーフェザー級王座を獲得。1度防衛。2022年4月に吉野修一郎に11回負傷判定で敗れて引退。通算戦績27勝(15KO)4敗1分け。引退後にトレジャーボクシングプロモーションを設立し、プロモーターとして活躍中。

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