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井上尚弥とマニー・パッキャオの王座獲得年齢比較、重なる最強ボクサーへの道のり

井上尚弥とマニー・パッキャオ,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

WBCの2022年MVPに選出された井上尚弥

プロボクシングの世界バンタム級王座を4団体統一した井上尚弥(29=大橋)が、世界ボクシング評議会(WBC)の2022年の年間最優秀選手に選ばれた。

昨年6月にノニト・ドネア(40=フィリピン)に圧巻の2回TKO勝ちすると、12月にはポール・バトラー(34=イギリス)に11回KO勝ちで4団体統一。2試合とも世界王者相手にインパクトの強い勝ち方で、世界ヘビー級王者のタイソン・フューリー(34=イギリス)とともに選出された。

井上は4本のベルトを返上し、スーパーバンタム級転向を表明。早くもWBOではスーパーバンタム級1位にランクされ、2023年は日本選手では井岡一翔(33=志成)に次いで2人目となる4階級制覇を目指す。

プロデビュー以来、無傷の24連勝(21KO)ととどまるところを知らない井上は、世界のボクシング史上でも屈指の名ボクサーへの道を駆け上がっている。アジアが生んだ最高のスーパースター、マニー・パッキャオ(44=フィリピン)が歩んだ道のりと比較したのが下の表だ。

井上尚弥とマニー・パッキャオの王座獲得年齢

パッキャオは29歳で3階級制覇

フィリピンの貧しい家庭で育ったパッキャオは16歳の冬、井上と同じライトフライ級でプロデビューした。初めて世界タイトルを獲得したのが1998年12月、WBC世界フライ級王者チャチャイ・ダッチボーイジム(タイ)を8回KOで下した一戦。20歳になる直前だった。

初防衛後の翌1999年9月に敗れて無冠になると、一気に3階級上げてスーパーバンタム級に転向。2001年6月、IBFスーパーバンタム級王者レーロホノロ・レドワバ(南アフリカ)に6回TKO勝ちで2階級制覇を果たしたのが22歳だった。

4度防衛後、フェザー級に転向してからは、マルコ・アントニオ・バレラやファン・マヌエル・マルケス、エリック・モラレスら「メキシコ三銃士」と激闘を展開。主要4団体のタイトルは奪えなかったが、本場ラスベガスでパッキャオの人気と知名度は十分に高まった。

パッキャオが3階級制覇を果たしたのは今の井上と同じ29歳だった。2008年3月、WBCスーパーフェザー級王者ファン・マヌエル・マルケスと2度目の対戦で判定勝ちして3階級制覇すると、同年6月にはデビッド・ディアス(アメリカ)を9回で倒してWBCライト級王座も強奪し、4階級制覇。同年12月にはノンタイトルながら史上初の6階級制覇を果たしたオスカー・デ・ラ・ホーヤ(アメリカ)に8回終了TKO勝ちした。

パッキャオはさらに階級を上げ、2009年11月にミゲール・コット(プエルトリコ)を12回TKOで下してWBOウェルター級王座を獲得し、5階級制覇を達成。さらに翌2010年11月にはWBCスーパーウェルター級王座決定戦で12センチも身長の高いアントニオ・マルガリート(メキシコ)に大差の判定勝ちを収め、史上2人目の6階級制覇を果たした。この時31歳だった。

パッキャオは2021年8月、ヨルデニス・ウガス(キューバ)に判定負けしたのを最後に42歳で引退。2022年5月のフィリピン大統領選挙には落選している。

井上はスーパーバンタム級統一が最終章?

一方、井上は2012年10月に19歳でプロデビュー。2014年4月に6戦目でアドリアン・エルナンデス(メキシコ)に6回KO勝ちしてWBCライトフライ級王座を獲得したのが21歳になる直前だった。

初防衛後、減量苦のため2階級上げ、2014年12月にWBOスーパーフライ級王者オマール・ナルバエス(アルゼンチン)に挑戦。プロアマ通じて150戦以上で一度もダウン経験のない安定王者をたった2回で沈め、当時世界最速の8戦目で2階級制覇を達成した。まだ21歳だった。

同王座は7度防衛後に返上。2018年5月にジェイミー・マクドネル(イギリス)に1回TKO勝ちしてWBAバンタム級王座を奪い、3階級制覇したのが25歳だった。

ワールドスーパーボクシングシリーズ(WBSS)に参戦して一気にベルトをかき集めるかと思われたが、対立王者のケガによる離脱などで思ったように進まず、その後のコロナ禍もあって2022年に4年半かかってようやく4団体を統一した。

ここ3年間で5試合しか消化できていないことは、井上のキャリア形成において残念なことではある。しかし、パッキャオが3階級制覇したのも29歳。そこから階級を上げて最終的に6階級制覇した先駆者の存在は、希望を見出すのに十分だ。

1月13日の会見で井上は「最終章じゃないでしょうか」とスーパーバンタム級での4団体統一がボクサーとしての最終目標とも受け取れるコメントを口にした。かつては35歳まで現役を続け、フェザー級まで上げて5階級制覇を念頭に置いていることを明かしていたが、スーパーバンタム級での4団体統一がバンタム級と同じように長引くようだと自らキャリアに終止符を打つ可能性があるのかも知れない。

ただ、身長166センチで井上とほとんど変わらないパッキャオは、30代に入ってからも世界のトップクラスで自分より大きい相手と戦い続けた。アスリートは誰もが引退を考える時が来る。危険なスポーツであるボクシングなら、「引き際」により敏感になるのは当然だ。パッキャオのように限界までリングに上がり続けるか、どこかでスパッと一線を引くか、未来のことは誰にも分からない。

4月で30歳になる「モンスター」。今後のリングは一戦一戦、いや1ラウンド3分間、全ての動きをまぶたに焼き付けておくべきだろう。

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