まずはバンタム級で4団体統一を目指す井上尚弥
プロボクシングの世界バンタム級王者・井上尚弥(29=大橋)がノニト・ドネア(39=フィリピン)に衝撃の2回TKO勝ちでWBA、IBFに続いてWBCのベルトも奪った。4団体統一に向けて残るはWBOのベルトのみ。井上自身が「年内に実現すれば」と意欲を示したことで、WBO王者ポール・バトラー(33=イギリス)との対戦が決まるのか俄然、注目が集まっている。
一方で、年内に決まらなかった場合はスーパーバンタム級に上げる意向も示している。これまでライトフライ級、スーパーフライ級、バンタム級の3階級制覇している井上は、スーパーバンタム級王座も奪取すれば、日本人では井岡一翔(33=志成)に続いて2人目、世界でも23人目の4階級制覇となる。
仮に年内にバトラーに勝って4団体統一を果たしたとしても、来年にはスーパーバンタム級に向かうだろう。最強のドネアに完勝した今、バンタム級に留まって消化試合のような防衛戦を重ねるよりも、井上はより高みを目指すはずだ。つまり遅かれ早かれ、スーパーバンタム級で戦うことになる。
バンタム級リミットは53.52キロ(118ポンド)、スーパーバンタム級は55.34キロ(122ポンド)。その差は2キロにも満たないが、ボクシングで1階級違えば、体格もパワーも違う。ましてや48.97キロ(108ポンド)のライトフライ級から上げてきた井上にとっては、今後は自分よりも大きなボクサーとの戦いが増える。体重は同じでも骨格やリーチの差は埋めることはできないからだ。
さらに今のスーパーバンタム級はハイレベルだ。井上がいずれ戦うことになる可能性のある王者を紹介しよう。
WBC&WBO王者スティーブン・フルトン
WBCとWBOのスーパーバンタム級統一王者がスティーブン・フルトン(27=アメリカ)。身長169センチで、165センチの井上と4センチしか変わらないが、リーチは179センチあり、171センチの井上より8センチも長い。しかも、リーチ差を活かすような速いジャブを打つ。髭を伸ばした風貌からは荒々しいファイターをイメージしがちだが、正当派の右ボクサーで、フットワークとディフェンスも良い。
アマチュアで90戦のキャリアがあり、2014年にプロデビュー。2021年1月にWBO世界スーパーバンタム級王者アンジェロ・レオに判定勝ちで王座を獲得すると、同年11月にはWBC同級王者ブランドン・フィゲロアに判定勝ちで2団体を統一した。井上がドネアを倒した3日前の6月4日にはダニエル・ローマンに判定勝ちでタイトル防衛している。
戦績は21戦全勝(8KO)。KO率は38%と一発の怖さはないが、簡単にはクリーンヒットを許さないうまさに加え、スタミナも兼ね備えている。井上に対して「俺が圧勝する。俺には小柄すぎる」と豪語していることもあり、対戦が実現すれば盛り上がることは間違いない。
WBA&IBF王者ムロジョン・アフマダリエフ
もう一人の対抗王者が、WBAとIBFのタイトルを持つムロジョン・アフマダリエフ(27=ウズベキスタン)。2016年のリオデジャネイロ五輪で銅メダルを獲得してプロ転向し、2020年1月、当時のWBAスーパー&IBF世界スーパーバンタム級王者ダニエル・ローマンに判定勝ちして8戦目で2団体の王座を奪取した。
同年4月にはIBF暫定王者の岩佐亮佑に5回TKO勝ちで初防衛。11月にはホセ・ベラスケスに判定勝ちで2度目の防衛を果たしている。6月25日にはロニー・リオスと3度目の防衛戦を予定しているサウスポーだ。
豊富なアマチュアキャリアで培った高い技術とスピードを持ちながら、時折荒々しいフックを振り回すなど変幻自在のスタイルで、戦績は10戦全勝(7KO)。身長166センチ、リーチ173センチとサイズ的には井上と変わらないが、まだ底を見せていない不気味さもあり、対戦が実現すればハイレベルな技術戦になるだろう。
スーパーバンタム級は2団体統一王者が2人の現状だが、両者が対戦して4団体統一王者が誕生する可能性もある。ただ、ビッグマネーが動くボクシング界では虎視眈々とベルトを狙う猛者が世界中で出番を待っており、先行きは不透明だ。日本にも亀田和毅や岩佐亮佑、赤穂亮らスーパーバンタム級の世界ランカーがおり、井上の弟・拓真もWBOアジアパシフィック同級王座と日本同級王座のベルトを保持している。
いずれにしても、まずは井上尚弥がバンタム級で4団体統一することが先だが、その先にはスーパーバンタム級で世界の強豪が手ぐすねを引いている。それでも全階級を通じて「世界最強」に推す声もある井上には十分期待できるのも確か。今後どんな展開が待っているのか、次のドラマが楽しみだ。
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