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プロボクシングの世界バンタム級4団体統一戦で井上尚弥（29＝大橋）に敗れたポール・バトラー（34＝イギリス）の消極的な戦い方に一部で批判の声が挙がっている。
バトラーは元々足を使うタイプで34勝（15KO）3敗の戦績が示す通り、パワーで倒すタイプではない。距離を保ちながら時々パンチをまとめてポイントを奪うことに長けたテクニシャンだ。
井上自身が試合前から「長引く想定」と話しており、バトラーの戦い方は十分に予想できた。ただ、井上のパンチがクリーンヒットしても、ノーガードで挑発しても、ロープ際に後退して誘ってみても、バトラーは反撃しなかった。
猛攻に耐えて後半に一打逆転を狙う、モハメド・アリばりの「ロープ・ア・ドープ」作戦かとも思われたが、井上のスタミナが切れなかったこともあり、バトラーは最後までほとんど手を出さずじまいだった。
おかげで井上の試合を11回まで堪能できたという見方もできるが、両者の実力差が大きかったことが結果的に試合を長引かせたというのが実態だろう。バトラーは何もできなかったのだ。
井上が強すぎるがゆえの展開であり、バトラーを責めることはできない。むしろ4団体統一に向けて避けて通れなかったWBO王者が、よくぞ井上との対戦に応じてくれたというのが井上陣営の本音ではないか。試合後に井上が感謝の意を表明していた通り、バトラーが対戦を拒否すれば日本初の偉業は達成できなかったからだ。
手数が極端に少なくてもルール違反にはならない。ボクシングはローブロー（ベルトライン以下への攻撃）やバッティング（頭突き）、サミング（グローブの親指で相手の目を突く行為）、ラビットパンチ（後頭部への打撃）などを反則として規定しており、減点されたり、ひどい場合は失格負けとなるが、攻めないことへのペナルティはない。
「無気力試合」は反則として規定されているものの、バトラーから「無気力さ」は感じられなかった。井上のパンチ力を警戒するあまり、被弾を恐れて踏み込めなかっただけだ。
ただ、今回のような試合展開が今後も起こる可能性はゼロではない。1対1で戦う格闘技の特性上、両者が勝利を目指して対峙することは大前提。しかし、例えば高額なファイトマネーを得るために試合を受け、できるだけダメージを残さずにサークリングして12ラウンドを終えようとするボクサーが出てきたとしても「無気力」と判断されなければ失格にはならないのだ。
ボクシングと同じく時間制限のある柔道では、相手と取り組まず勝負をしようとしなかったり、立ち勝負で極端な防御姿勢を取り続けたりした場合に審判から「指導」が入る。指導の回数によって「有効」や「技あり」と同等のポイントが相手に入るルールが取り決められている。
ボクシングも同様のルール導入を議論すべきではないだろうか。もちろん、ボクサーによってそれぞれのスタイルがあり、ポイントで大量リードしている場合は最終12回にほとんど手を出さずに流すこともある。
そのため一概に規定することは難しいが、例えば60秒間パンチを出さなかった場合や、あるいは1ラウンドに出すパンチの最低ラインなどを定め、1回目は注意、2回目は減点とするなど、議論の余地はあるはずだ。
当然ながらボクシングは危険なスポーツのため慎重さは必要。ルールで縛ってパンチを出させることが、ボクサーの安全を脅かすようなことにつながってはならない。
ただ、今回は井上の力ずくのノックアウトで大団円を迎えたものの、もし、あのまま判定まで逃げ込まれていたら後味の悪さが残っただろう。人気低下が叫ばれるボクシングの魅力を最大限に引き出すためには、常にルールをブラッシュアップしていくことから目を背けてはならない。
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