「超守備的」ポール・バトラーを11回KO
プロボクシングの世界バンタム級4団体統一戦が12月13日、東京・有明アリーナで行われ、WBA・WBC・IBF王者・井上尚弥(29=大橋)がWBO王者ポール・バトラー(34=イギリス)に11回1分9秒KO勝ちし、日本初、世界でも9人目となる4団体統一を果たした。
初めてWBAバンタム級王座を奪取してから4年半。4本のベルトを1本ずつ、全て王者から、全てKOで奪ったのは世界でも初の大偉業となった。
試合は立ち上がりから井上が一方的に攻める展開。12ラウンドを見据え、慎重に慎重を期して戦うバトラーは手数が少ない。井上の強烈な左ボディーがWBO王者を捉えるが、足を使って下がり続けるためダメージは半減。ダウンシーンは訪れないままラウンドを重ねた。
6回には焦れ始めた井上が左構えにスイッチ。さらにノーガードで誘うものの、それでもバトラーは攻めてこない。8回には井上が両手を背後に回して顔を突き出す。井上が相手を挑発することは珍しいが、それだけ攻めあぐねていたことも確かだ。
ⒸPXB WORLD SPIRITS/フェニックスバトル・パートナーズ
SPAIA公式ツイッター(https://twitter.com/SPAIAJP)で実施した勝敗予想アンケートでは「井上尚弥1~4回KO勝ち」が60.3%で最多。「井上尚弥5~8回KO勝ち」が32.8%で、9割以上は中盤までに井上がKO勝ちすると見ていたが、試合は大方の予想を覆して終盤に突入した。
一方的に攻められながらいつまで経っても反撃しないバトラーの姿勢に、判定勝ちムードも漂い始めた11回だった。井上は開始ゴングが鳴る前に「本気を出すぞ」と言わんばかりにグローブを交互に突き上げて場内を沸かせる。
じりじりとプレッシャーをかけてロープに詰めると、怒涛の連打に屈するようにバトラーがダウン。ボディーブローのダメージが蓄積していたイギリス人王者は立ち上がることができなかった。
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混沌とするスーパーバンタム級戦線
試合後、リング上で行われたインタビューで井上は「ファンの皆様、dTV、ひかりTVでご覧の皆様に、より多くのラウンドを見せることができて、長くボクシングができたので満足しています」と語った。
まさか、わざと長引かせたわけではないだろうが、大方の予想をいい意味で裏切る終盤のノックアウト劇を提供し、ファンへの感謝と独占配信したdTV、ひかりTVの名前を口にするあたりはプロフェッショナルだ。井上尚弥が強すぎるがゆえの11回KO勝利に満足したファンも多かっただろう。
気になるのは来年以降の戦い。井上が転向を明言したスーパーバンタム級は、4団体に2人の統一王者が君臨しているが、混沌とした状況になっている。WBCとWBOのタイトルを持つスティーブン・フルトン(28=アメリカ)はフェザー級転向が噂されており、スーパーバンタム級王座を返上する可能性がある。
WBAとIBF王座を持つムロジョン・アフマダリエフ(28=ウズベキスタン)はIBFからマーロン・タパレス(30=フィリピン)との指名試合を命じられるなど、先の見通せない状況だ。
井上が正式にバンタム級のベルトを返上してスーパーバンタム級に転向すれば、各団体で上位にランクされることは確実。フルトンが返上すれば空位になった王座決定戦に出場できる可能性もあるものの、他にもチャンスを待っている上位ランカーは多い。
日本で山中慎介と2度戦い、ドーピング検査陽性や計量でのリミットオーバーなどの失態を犯して「悪童」と呼ばれたルイス・ネリ(27=メキシコ)もその一人。現在、WBC1位、WBO2位、IBF3位にランクされており、王座決定戦や挑戦者決定戦などで井上と戦う可能性もゼロではなく、山中の「敵討ち」となれば盛り上がるだろう。
いずれにしても、2023年の井上にはビッグマッチが待っている。次なる目標は井岡一翔に次いで日本選手2人目となる4階級制覇。29歳でもまだまだ強くなっている井上に世界が注目している。
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